六十四卦 意味・読み方
巽為風|意味・卦辞爻辞解説(そんいふう)
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本ページは公開資料をもとに、卦辞、彖伝、象伝、占断、爻辞、占例を現代日本語で整理したものです。
引
形のない風がどこへでも入るように、正面から当たらずに道理と命を人の心へ届かせる卦です。
卦象と卦名
巽は上も下も巽、風の象です。風には形も色もなく、一見すると頼りない虚のようでいて、どこへでも入り込みます。力ずくで物を打ち破るというより、すき間に沿って滑り込む働きです。卦体は二つの陽が上にあり、一つの陰が下に伏しています。陽は実であり、陰は虚です。虚であるからこそ入ることができます。巽の本義が入ることだとされるのは、そのためです。
卦の中心的な意味
序卦伝は「旅して容るる所なし、故にこれを受くるに巽を以てす。巽は入なり」と言います。旅する人には身を容れる場所がありません。そこで次に身につけたいのが、環境へ順に入り、人情や制度のなかに入口を見つける力です。巽とは、柔順でありながら進み入る、その力を指します。
卦辞は「巽は小しく亨る。往く攸有るに利あり。大人を見るに利あり」と言います。大なたを振るって強行する卦ではありませんから、通じ方は小さいものにとどまります。けれども柔らかく入る道が開いているので、往くところがあれば利があります。加えて巽には方向の見きわめと、正しい命を聞く相手が要ります。だから大人を見るに利があるのです。
向いている問い
巽を得たときは、上位者に会う、賢者に教えを請う、段階を踏んで説得する、何度も意思疎通を重ねる、柔らかく押し進める、といった運び方が向いています。
避けたいのは、迷って決められないこと、相手に合わせすぎること、低く伏しすぎて尊厳や権限まで手放すことです。本当の巽は、柔のなかに剛があり、順のなかに主があり、入っていく先に方向があります。
卦辞
押し切る卦ではないので通じ方は小さく、入口を探して大人に会うほど道が開きます。
原文
巽:小亨。利有攸往。利見大人。
書き下し文
巽は小しく亨る。往く攸有るに利あり。大人を見るに利あり。
現代語訳
巽は少し通じます。往く所があるのに利があります。大人を見るのに利があります。
卦辞の読み解き
卦辞が説くのは二つ、柔らかく入る道を選ぶことと、正しい基準を持つ人に会うことです。
高島の読みでは、巽はもともと乾から来ています。乾は純剛で大いに亨りますが、初爻が一つ動いて巽となり、純剛が柔に変わります。だから小亨です。力を手放したわけではありません。剛気を収めて、柔らかく入る用へ転じたのです。小さな歩み、細部からの入口、少しずつ成すことに向きます。
「往く攸有るに利あり」は、剛に過ぎる人がどこへ行っても壁に当たるのに対し、巽は柔で剛を補うので、勤めて進めば入っていけるという意味です。風も、正面から押すだけでは道がなくても、勢いに沿えば多くの場所へ届きます。
「大人を見るに利あり」の大人とは、二と五の中正の位を指します。巽に大人がなければ、柔順はただの迎合、こび、迷いに落ちやすくなります。大人を見るとは、柔順に基準を与え、進退に判断を与えることです。柔は正に依るべきで、邪に依ってはなりません。順う先は理であって、私ではありません。
実際の読み方
抵抗にぶつかったとき、いつも力ずくで突進する必要はありません。まず要になる人を見つけ、規則を理解し、細かな意思疎通で入口を開きます。
ただし巽は小亨です。柔らかく粘ることだけを全戦略にすると足りません。大きな事を成すには、中正の剛が方向を定める必要があります。
彖曰
なぜ命を重ねるのか。風が続けて吹くように繰り返してこそ、志が実行まで届くからです。
原文
重巽以申命、剛巽乎中正而志行。柔皆順乎剛、是以小亨、利有攸往、利見大人。
書き下し文
巽を重ねて以て命を申ぬ。剛中正に巽いて志行わる。柔皆剛に順う、是を以て小しく亨り、往く攸有るに利あり、大人を見るに利あり。
現代語訳
重なる巽によって命を重ねて申します。剛が中正に巽って志を行い、柔がみな剛に順うので、小しく亨ります。往く所があるのに利があり、大人を見るのに利があります。
彖伝の読み解き
命を重ねて明らかにし、柔が正しい剛に順うところに、小さな通り道が開きます。
巽卦は上下とも巽なので重巽です。巽は命の意でもあり、申は重ねて申すことです。申命は、同じ言葉を機械的に唱え直す作業とは違います。命令、規則、原則を重ねて明らかにし、上も下も、何をするのか、なぜするのか、どう進めるのかを知るようにすることです。
巽卦でいちばん妙なのは剛の用い方です。純剛は過ぎやすく、純柔は弱すぎます。剛が巽うことができれば、中正で志が行われます。柔順な人は陽剛に順い、陽剛の命令は柔順を借りて深く入ります。すると令は風のように行き渡り、影のように速く応じます。上が命を出し、下がそれを承ける。下が順に承けるので、上も民心に背きません。
巽が正しければ、謙順に理へ入り、剛柔が互いに助け合います。巽が過ぎれば、優柔不断や安易な迎合になります。強圧だけの命令は人心へ入らず、迎合だけでは権威を失います。重巽の良さは、暴を用いずに重ねて明らかにし、粗雑にせずに固く実行するところにあります。
実際の読み方
組織でも、家庭でも、会社でも、国の運営でも巽は使えます。大事な規則は一度言えば済むものではありません。説明し、示し、確認し、直し、また伝える必要があります。
意思疎通は穏やかに運び、原則はぶれさせません。風が入り込めるのは吹き続けるからで、命が行われるのも、伝え続けるからです。
象曰
一度の通知で終わらせず、目的と期限を確かめ直してから事を行います。
原文
随風、巽、君子以申命行事。
書き下し文
風に風の随うは巽なり。君子以て命を申ね事を行う。
現代語訳
風が風に随うのが巽です。君子はこれを見て命を重ねて申べ、事を行います。
象伝の読み解き
象伝の眼目は、命令を重ねて明らかにし、そのうえで実行へ移すところにあります。
随は相次ぐことです。風が風に随って吹き、前の風が尽きないうちに後の風が来るので、どこへでも入っていきます。命令も同じです。まず明らかにし、実行し、確認し、さらに進めます。そうして初めて届きます。
上卦の巽は上位者が命を施す姿、下卦の巽は臣民が命を奉ずる姿に当たります。上位者が巽の道で下を化すなら、民心に逆らいません。下位者が巽の道で上を承けるなら、条教に背きません。こうした風行が成り立つのは、上下ともに命令の意味を分かっているからです。盲従とは根が違います。
君子の徳は風のようで、小人の徳は草のようだと言います。風が渡れば草はなびきます。本当に有効な指導とは、規則も徳行も風気も、絶えず隅々まで吹き込んでいくことです。権力で人を押す力とは、届き方が違います。
実際の読み方
何かを進めたいとき、一回通知して終わりにはできません。目的、境界、責任、期限を明らかにし、そのあとも追いかけます。
実行がうまくいかない原因は、命令が弱いことより、命令が入っていないことにあります。巽が教えるのは、届くまで入れ続ける力です。
占断
順って入口を見つけ、大人に会い、命を重ねれば利があり、迷いと卑屈が最大の落とし穴になります。
総合的な占意
巽の危うさは、順うことと定見がないことを取り違えるところにあります。初爻は進退が定まらず、三爻は頻りに巽って辱められ、上爻は床下に伏して資斧を失います。巽順も過ぎれば事を壊します。柔には方向が要ります。順うなら、順う先は正道です。
項目別の占断
- 時運と行動:運は順調です。流れに沿って深く入りますが、柔順にも行き先をはっきり持たせます。
- 経営と功名:事実と市場に応じて動けば利を得ます。勢いを借りても、原則と最終責任は手放しません。
- 戦いと管理:命令は明確かつ迅速に伝え、繰り返し確認します。指示が出たあとの遅疑は避けます。
- 婚姻と関係:礼にかない、役割を明らかにして協力すれば長く続きます。温和であっても卑屈にはなりません。
- 病・訴訟・失せ物:病は医師に診てもらいます。訴えは重ねて伝える必要があり、失せ物は範囲を広げて何度も探します。
六爻の要点
- 初六:進退を決めかねる時は、柔らかさだけに頼らず、武人のような決断で方向を定めます。
- 九二:隠れた事情や疑いは、深く調べ、専門家の助けを借りて何度も確かめます。
- 九三:従い過ぎて定見を失えば辱めを招くので、卑屈な追従はやめます。
- 六四:正しい位置で柔順に動けば悔いは消え、実際の成果を手にできます。
- 九五:命令の前後に説明と点検を重ね、正しさを守れば不利はありません。
- 上九:高位で退き伏し過ぎると資源も権限も失うので、決断すべき時に決断します。
実際の読み方
要になる人に会い、申請を出し、要望を重ねて伝え、意思疎通を続けます。経営では市況に合わせて動きますが、譲れない一線までは動かしません。
関係では温和であっても卑屈になりません。管理では命を重ねて明らかにしますが、ただ声を張るだけでは届きません。
初爻
進むか退くかで揺れているのは、志がまだ疑いのなかにあるからです。
原文
初六:進退、利武人之貞。
書き下し文
初六、進退す、武人の貞しきに利あり。
現代語訳
進んだり退いたりします。武人の正しさに利があります。
爻辞の読み解き
迷って揺れる時に力になるのは、決断を伴う正しさです。
初爻は陰柔で下におり、巽の始めに当たります。巽はもともと柔順ですが、初位に来ると迷いへ傾きます。進もうとして退き、退こうとして進み、考えが起こるたびに疑いの風で散ってしまいます。
象伝は「進退すとは、志疑うなり。武人の貞に利ありとは、志治まるなり」と言います。疑いが治まらなければ、企ては敗れます。巽の反卦には兌の象があり、兌は武人にも当たります。ここでいう武人とは、決断でき、疑いを治められる人のことです。無謀に突き進む人ではありません。巽の柔が過ぎる時は、武人の剛決を借りて志を定めます。
実際の読み方
時運は心が迷い、企てが逆さまになりやすく、成りにくい時です。経営は巽なら本来利がありますが、疑えば敗れ、断てば成ります。功名は武職、実行、決断の道であれば成ります。
婚姻は剛健で果断な相手がよく、文弱なだけでは心もとなくなります。家宅は向きや出入りに不便があり、調整が要ります。妊娠出産は、古占では女児とされます。
高島の占例
友人が気運を問うたところ、巽が小畜に変じる初六が出ました。高島は、風が東へ行ったり西へ行ったりして来去の定まらないさまは、疑いの多い人の進退が一定しないのに似ていると読みました。この人は木運に交わり、木は風に吹かれて揺れます。事に臨んで断てず、事を畏れるほど多事を招きます。深く沈んで剛で克つ態度を取れば、初めて正を得ると断じました。
二爻
暗く隠れた所まで入り、専門の手を借りて何度も確かめれば、煩雑に見えても吉です。
原文
九二:巽在床下、用史巫紛若、吉無咎。
書き下し文
九二、巽いて床下に在り、史巫を用うること紛若たり、吉にして咎なし。
現代語訳
巽いて床下にあります。史巫を用います。紛々としていても吉で、咎はありません。
爻辞の読み解き
九二の吉は、隠れた所まで入り、専門の助けを借りて丁寧に解くところから来ます。
床下は、暗く隠れた低い場所です。九二は中を得ているので、問題の隠れた所へ入り込み、疑いを明らかにできます。ここでの床下は問題の深部を指すのであって、卑しさや無能さの話ではありません。
史は卜筮を掌り、巫は祓禳を掌ります。古代の文脈で史巫を用いるとは、神明と通じ、疑懼を解くことでした。今の言葉にすれば、専門家に重ねて確認してもらい、診断を受け、証拠を調べ、心の結び目をほどく作業に近いものです。紛若とは、数が多くても秩序があるさまで、反復しても乱れません。九二は中を得ているので、こうした深い確認が吉になります。
実際の読み方
時運は助けを得て吉が多い時です。経営で決めにくい事があるなら、相談し、確認し、検査し、証拠を調べます。功名は、目立たない後押しを得ることがあります。
戦いでは位置が低く進退が難しいので、先に明らかにしてから動きます。婚姻は占い問うて事情がはっきりすれば吉です。家宅は祈りと、隠れた不具合の整理が向きます。病は病因を調べ、神経や心の疑いを解くことも要ります。
高島の占例
ある人が時勢を問い、巽が漸に変じる九二を得ています。当時の時勢は上下とも巽順が風を成していますが、それを権貴の門前で用いれば諂媚になり、神明の前で用いれば誠をもって明を求めることになる、と高島は説きました。爻辞が史巫を用いて吉と言うのは、巽順を世への媚びに使うのではなく、誠敬をもって明を求めよという教えです。
三爻
頭を下げるばかりで芯がなければ、順うほど身は低くなり、恥だけが残ります。
原文
九三:頻巽、吝。
書き下し文
九三、頻りに巽う、吝なり。
現代語訳
しきりに巽います。吝です。
爻辞の読み解き
何度も順い過ぎれば、かえって恥を招きます。九三が警めるのはそこです。
頻は繰り返すことです。三爻は下巽の終わりにあり、上巽へ移る位置に立ちます。巽ってまた巽い、順ってまた順います。巽は本来美徳ですが、順うことだけを知って、剛によって巽を制することを知らなければ、卑屈、委縮、無能へ落ちます。
「剛が中正に巽う」を、ひたすら巽の側だけを取ることと読んではいけません。九三は陽が陽位にあり、本来は剛の性質を備えています。それなのに重巽のなかに沈み、剛柔の釣り合いを取れないまま、低頭を繰り返します。すると志は卑くなり、道は屈し、ついに窮まります。
実際の読み方
時運は卑屈になりやすく、人に軽く見られます。戦いはひたすら疲弱で勝ちにくい時です。功名は得るものが小さく、辱めも伴います。経営は譲歩が過ぎて利を得にくくなります。
婚姻は門戸が低い象です。家宅は屋が小さく貧弱です。訴訟では柔弱ゆえに欺かれやすく、自分が争わなかった落ち度まで引き受けることになります。
高島の占例
占例1
友人が自分の気運を問うた折には、巽が渙に変じる九三が出ました。高島は、この人の気運は衰弱していて難を克つ力がなく、ひたすら委靡するために、かえって羞辱を招くと読みました。剛巽中正をもって自分を正せば自強できる、と勧めています。
占例2
同じ爻は、貴族院の気運を占ったときにも出ました。高島は、院中の議員の多くが巽順を抱き、屈辱して楽しまない気風があり、威望が頽弱であると断じました。
四爻
位も時も得た柔順は悔いを消し、狩りの獲物を三種に分けるほどの実りを生みます。
原文
六四:悔亡、田獲三品。
書き下し文
六四、悔い亡ぶ、田して三品を獲。
現代語訳
悔いは亡びます。田して三品を獲ます。
爻辞の読み解き
六四の爻辞は、悔いが消え、狩りでは三種の獲物を得ると告げます。
四爻は陰柔が陰位に居り、上巽に入って、九五の尊位に近づきます。剛に順って位を得る形です。ここまでの巽には疑いや卑屈、屈辱がありましたが、六四では順って用いられ、悔いは消え、事には収穫があります。
「田して三品を獲」とは、田猟で得た獲物を三等に分け、祭祀、賓客、庖厨などに充てることです。人事に置き換えれば、小さな利があるだけでなく、用途と階層をもって成果を納めることになります。巽順が位を得、時を得、主を得れば、低頭は功へ変わります。
実際の読み方
戦いでは東南から進兵し、斬獲があります。功名は功を献じて賞を受け、身を立て名を成すことがあります。経営では皮革、羽毛、人参などの採買や転売で利を得る象があります。
婚姻は礼が成ります。病は悔いが亡び、癒えることがあります。失せ物は見つかります。産み月については、古い占いは女児と見ます。
高島の占例
横浜のある商人が謀事の得失を尋ね、巽が姤に変じる六四を得ました。高島は、巽は近市利三倍の卦であり、六四は重巽の主で、爻辞も悔亡有獲を明言しているのだから、謀るところには必ず大利があると断じました。その商人は資金を集めて日光、会津へ赴き、人参を買い集め、さらに清商へ転売し、果たして大きな利を得ました。
五爻
出す前に丁寧に告げ、出したあと周到に量るので、始めは地味でも終わりは吉です。
原文
九五:貞吉悔亡、無不利。無初有終、先庚三日、后庚三日、吉。
書き下し文
九五、貞にして吉、悔い亡ぶ、利あらざるなし。初め無く終わり有り、庚に先だつこと三日、庚に後るること三日、吉なり。
現代語訳
正しければ吉で、悔いは亡びます。すべてに利があります。初めはなくても終わりがあります。庚に先だつ三日、庚に後れる三日です。吉です。
爻辞の読み解き
前後を周到に整えれば、最後には吉になります。
九五は尊位にあり、中を得て正しい位にいます。剛が中正に巽う大人の位ですから、全爻のうちで吉象がいちばん多くなります。
「庚に先だつこと三日」は丁に当たり、叮嚀に告げ戒める意味を取ります。「庚に後るること三日」は癸に当たり、揆度して周詳に量る意味を取ります。命令を出す前に何度も告げ、出したあとにも周到に量ります。巽の働きは、その場で口を開くところでは終わりません。前に申明があり、後に復核があります。始めは目立たなくても最後には結果が出るので、「初め無く終わり有り」と言います。
高島の読みでは、蠱卦の先甲後甲と巽卦の先庚後庚は対になります。蠱は壊乱のあとに更新する卦、巽は壊乱を待たず、まだ乱れないうちに命を申べて事を行う卦です。九五は権を用いることが中を得ていて、時に応じて旧を改め新に従える位置にあります。
実際の読み方
時運は大吉で、丁や癸に関わる時日が利を持つことがあります。経営は初めに小さな悔いがあっても、後に大利があります。功名は中正の位を得て名を成します。
戦いでは、先に軍令を丁寧に告げ、後に地勢を周詳に量ります。事に臨んでよく謀れば勝ちます。婚姻は水火が相配して吉です。家宅は北に坐して南に向かうような、中正大吉の象です。病は古占では三日ほどで癒えるとします。
高島の占例
明治二十四年、ある貴顕の気運を占うと、巽が蠱に変じる九五が現れました。高島は、丁から癸までの七年がちょうど盛運に交わるので、この人は本年必ず顕職に昇ると読みました。ただし変卦の蠱には国内の虫害、内乱の象もあるため、巽の庚によって命を申べ、揆度し、旧を改め新に従い、中正の志を行う必要があるとしました。
上爻
高い位にいながら床下まで伏せば、斧も権限も手を離れ、守っているつもりでも凶です。
原文
上九:巽在床下、喪其資斧、貞凶。
書き下し文
上九、巽いて床下に在り、其の資斧を喪う、貞なるも凶なり。
現代語訳
巽いて床下にあり、その資斧を失います。正しくても凶です。
爻辞の読み解き
低く伏し過ぎて資源や権限を失えば、正しいつもりでも凶です。上九はその形にあたります。
同じ床下でも、九二は中を得るので吉、上九は極まり過ぎるので凶になります。上九は全卦の最上にあり、位は高く責任も重い場所です。本来なら勇決して行うべきところです。それなのにひたすら退き伏し、恐れているのですから、高位の人が床下に伏しているようなものです。
資斧は資財であり斧鉞であって、権柄と実行の道具とも読めます。高位者は本来、斧鉞を受けて威権を振るう立場です。ところが巽懦で決断できないため、権力も資源も決断力も失います。事を畏れて事が増え、禍を避けようとして禍が集まります。自分では正を守っているつもりでも、結果は凶です。
実際の読み方
時運は委靡して、地位が高いほど危うく、得るものより失うものが多くなります。戦いでは主帥が恐れて決断できず、敗れます。経営は断つべき時に断たず、因循して時を失い、大きく損耗します。
功名は終局を保ちにくくなります。婚姻は恐れて権を失う象があり、長続きしません。家宅は主に喪憂があります。古占は、出産を女児の象と取ります。
高島の占例
明治二十四年に国運の治乱を占った際は、巽が井に変じる上九でした。高島は、上九は位が高く、事が多く、任も重いので、本来は有為であるべき時だと読みました。もし国家が現状に安んじ、何にでも恐れて従い、自ら強を争わなければ、商務往来では財を失い、国事交渉では威を失います。それが「其の資斧を喪う」です。重ねて命を申べ、天下とともに更新し、斧鉞の威を振るい、剛巽の志を行うべきだと断じました。
巽為風:読みの覚え
巽為風は、正面から押し破らずに入り込み、命を通していく卦です。ここでの柔らかさは、深く届かせるための手立てにほかなりません。
一度で伝わったとは思わない
風は一度吹いて終わりません。前の風が消えないうちに次が来るので、すき間にまで入り込みます。命令や説明も同じで、伝えて、実行させて、確かめて、また伝えます。この往復があってはじめて実行に届きます。 現場でよくある失敗は、命令が弱いことより、命令が入っていないことです。通知した回数より、相手が動けたかどうかで届き方を測ります。
柔らかさと迷いの分かれ目
相手に合わせているうちに行き先まで相手任せになっていたら、それは柔らかさというより迷いです。巽では、低く入っても芯は残します。どこまで譲り、どこからは譲らないかを先に決めておくと、順うことが卑屈へ滑りません。 低く伏すことと、必要な権限まで手放すことも別ものです。上九は伏しすぎて資斧を失いました。責任を負う立場なら、断つべき場面では断ちます。
入口を探して、少しずつ入る
交渉、教育、命令系統、調査では、正面の扉より横の入口を探します。段階を踏み、相手の事情に沿って進めば、押しても開かなかったものが動きます。 隠れた事情を扱うときは、九二のように専門の手を借ります。何度確かめても筋が乱れないなら、煩雑さは咎になりません。
風と沢、風と水
兌為沢とあわせて読むと、巽は柔らかく入り込む力、兌は悦びによって心を開く力であり、浸透と対話の違いが見えてきます。風水渙とあわせれば、巽は風そのものが入る働き、渙は風が水上を渡って結び目を散らす働きで、深く入ることが解きほぐしへつながると分かります。
巽為風:読みの覚え札記を開く
巽為風は、正面から押し破らずに入り込み、命を通していく卦です。ここでの柔らかさは、深く届かせるための手立てにほかなりません。
一度で伝わったとは思わない
風は一度吹いて終わりません。前の風が消えないうちに次が来るので、すき間にまで入り込みます。命令や説明も同じで、伝えて、実行させて、確かめて、また伝えます。この往復があってはじめて実行に届きます。 現場でよくある失敗は、命令が弱いことより、命令が入っていないことです。通知した回数より、相手が動けたかどうかで届き方を測ります。
柔らかさと迷いの分かれ目
相手に合わせているうちに行き先まで相手任せになっていたら、それは柔らかさというより迷いです。巽では、低く入っても芯は残します。どこまで譲り、どこからは譲らないかを先に決めておくと、順うことが卑屈へ滑りません。 低く伏すことと、必要な権限まで手放すことも別ものです。上九は伏しすぎて資斧を失いました。責任を負う立場なら、断つべき場面では断ちます。
入口を探して、少しずつ入る
交渉、教育、命令系統、調査では、正面の扉より横の入口を探します。段階を踏み、相手の事情に沿って進めば、押しても開かなかったものが動きます。 隠れた事情を扱うときは、九二のように専門の手を借ります。何度確かめても筋が乱れないなら、煩雑さは咎になりません。
風と沢、風と水
兌為沢とあわせて読むと、巽は柔らかく入り込む力、兌は悦びによって心を開く力であり、浸透と対話の違いが見えてきます。風水渙とあわせれば、巽は風そのものが入る働き、渙は風が水上を渡って結び目を散らす働きで、深く入ることが解きほぐしへつながると分かります。
この卦を読む前に
本卦、動爻、問いを照らす
卦は一ページだけで読み切るより、問いの置き方、動いた爻、六十四卦全体の流れと合わせて見ると見え方が落ち着きます。
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