六十四卦 意味・読み方
天山遯|意味・卦辞爻辞解説(てんざんとん)
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本ページは公開資料をもとに、卦辞、彖伝、象伝、占断、爻辞、占例を現代日本語で整理したものです。
引
退くべき時に退く卦です。陰が伸びる形勢では、身を引くことがそのまま道を守ります。
卦象と卦名
遯は上が乾天、下が艮山です。天は上にあって遠く、山は下に止まります。天と山ははるかに隔たり、互いに及びません。だから遠く退き、避ける象があります。卦体は四陽が上、二陰が下です。二陰が少しずつ長じ、陽気は退き始めます。小勢力が進み、大きな正気がやむなく退く時節です。
卦の中心的な意味
序卦伝は、恒は久であり、物はいつまでも同じ所に居られないので遯が続くと言います。恒は長く処する道でした。しかし形勢が変われば、居続けることがそのまま正しさではなくなります。遯の字は、豚が人を見て逃げる形と取り、逃れ避ける意に読みます。
卦辞は「遯、亨。小しく貞に利あり」と言います。退くべき時に退ければ、かえって道は通ります。ただし小利貞です。事を大きく広げる時ではありません。小さな所で正を守り、身を収め、害を避けます。時を得て退けば、身は退いても道は残ります。地位に執着して強く争えば、濁った勢いに引き込まれてしまいます。
向いている問い
遯を得たら、まず時勢がすでに不利かどうかを見ます。不正な人や流れが勢いを得て、自分が争うほど深く巻き込まれるなら、露出を減らし、距離を取り、核心を守ります。
遯が説くのは責任の放棄でも臆病な逃避でもありません。機を見て身の置き所を変える、それだけのことです。退き方が明らかなら、後に進む余地も残ります。
卦辞
退けば道は通ります。今は小さく正を守り、大きな功を争わない時です。
原文
遁:亨。小利貞。
書き下し文
遁は亨る。小しく貞に利あり。
現代語訳
遯は通ります。小さく正しく守ることが利です。
卦辞の読み解き
退くべき時に退けば道は通ります。大きく争わず、小さく正を守るところに利があります。遯は陰が長じる卦です。内で二陰が伸び、外の四陽はしだいに圧迫されます。邪と正は同じ主位に長く居られませんし、陰陽も同時に同じ所を占められません。修養があり責任を担える人でも、この時勢に退かなければ害を受けます。進んで通る卦というより、退いてから通る卦です。
小利貞の小は、下の二陰がまだ小さく、完全には横行していないことを示します。陽道がすっかり消えたわけではありませんから、小さな所でなら正を守れます。これを大勝と読み違えて進めば誤りますし、退避だから何もできないと見るのも行き過ぎです。遯の機会は小さく守れるところにあり、大きく無理に争うところにはありません。
遯は先見の明の卦でもあります。寒気が極まる前に衣を重ね、穀物が乏しくなる前に食を謀り、病が重くなる前に薬を求めます。陰勢が浸みるように長じるうちに後の勢いを見通せるかどうか、そこが遯の知恵の分かれ目です。
実際の読み方
仕事では、業界の風向き、権力の構造、協力環境が変わったなら、戦いに執着しません。職場では、不正な人が党を組んで伸びているなら、境界を守ります。感情では、絡みが深くなりすぎる前に距離を置くこともあるでしょう。
遯が求めるのは、扉を叩きつけて縁を断つような振る舞いではありません。巻き込まれずにすむ位置へ、静かに身を移せば足ります。
彖曰
時とともに退けるかどうか。陰が浸みるように伸びる前に、身と道を保ちます。
原文
遁亨、遁而亨也。剛当位而応、与時行也。小利貞、浸而長也。遁之時義大矣哉!
書き下し文
遁亨るとは、遁れて亨るなり。剛位に当たりて応じ、時と与に行うなり。小しく貞に利ありとは、浸みて長ずるなり。遁の時義大なるかな。
現代語訳
遯が通るとは、退いて通ることです。剛が位に当たって応じ、時とともに行きます。小しく貞に利があるとは、陰がじわじわ伸びることです。遯の時の意味は大きいものです。
彖伝の読み解き
退くことは、時勢に逆らわずに身と道を保つ大きな知恵です。九五は剛健で正位にあり、六二と応じます。時勢を読み、その時とともに動けます。下の陰気は少しずつ長じるので、小しく貞に利ありと言われます。
九五と六二は本来正応ですが、遯卦ではこの応がかえって迫りになります。六二の陰勢が伸び、九五の陽勢は退きます。二は五に応じながら、実のところ五を退かせる力です。陰長陽消は誰か一人が作り出すものではありません。時勢そのものの動きです。易を知る者は時勢と捻じれません。退くべき時には退き、身を退けて道を保ちます。
人事では、遯は運勢がしだいに否へ向かう形です。太王が狄を避けて岐へ移り、のちに周を興したこと、勾践が身を屈して呉に仕え、のちに越を興したことは、いずれも遯れて亨る例です。退くのは世を忘れて孤高になるためではありません。再び興る日のために身を残すためです。止まるべき時に止まり、去るべき時に去るという孔子の知時にも通じます。
六爻を見ると、下卦の吉は上卦に及びません。下卦には艮止の執着があるからです。初爻は退いて尾を露し、退き方がまだ半端です。二爻は執して留め、退かせません。三爻は繋がれて、退くに決しません。四爻は好遯で、籠絡に乗りません。五爻は嘉遯で、正志によって退きます。上爻は肥遯で、絡みなく最もゆったり退きます。
実際の読み方
遯を読む時は、退くかどうかだけでなく、退き方が清いかどうかも見ます。尾を引いて退けば危うく、人に囲い込まれれば脱しにくく、心に絡みが残れば病になります。
超然として礼にかない、余裕をもって退けるなら、それが遯の高明さです。
象曰
小人を遠ざけるのに憎しみは要りません。静かで厳かな境界がその役を果たします。
原文
天下有山、遁、君子以遠小人、不悪而厳。
書き下し文
天下に山有るは遁なり。君子以て小人を遠ざけ、悪まずして厳なり。
現代語訳
天下に山があるのが遯です。君子はこれを見て、小人を遠ざけ、憎まずに厳しくします。
象伝の読み解き
距離を置く時は、怒りで争わず、厳正な境界によって遠ざけます。天は上にあり、山は下にあって、相去ること遠いものです。山は天を怨みません。もともと及ばないだけのことです。君子はこの象を取り、正を守らない人を遠ざけます。
眼目は不悪而厳にあります。小人を遠ざけるのに、悪言で相手を攻める必要はありませんし、親しいふりをして曖昧にする必要もありません。憎めば心が乱れ、争えば相手の場に引き込まれます。厳であれば境界が明らかになり、相手も侵しがたいと知ります。最もよい遠ざけ方は、隙を与えず、自然と間が空いていく形です。
君子が小人に処する善法は、比附せず、争闘せず、決然と遠く遯れることにあります。恨みにまかせて切るのでも、弱さから譲るのでもありません。自分の態度と制度と距離を、そのつど厳正に保ちます。
実際の読み方
職場では、不正な人と罵り合わず、曖昧な協力もしません。証拠と境界を保ちます。関係では、説明を減らし、距離を厳しく保ちます。管理では、感情で怒るよりも、規則と隔離で処します。修身では、誘惑から遠ざかり、怨まず、怒らず、相手の流れに引かれないようにします。
占断
収めて退き、核心を守る時期です。小事は正を守れますが、大事で争うには向きません。
総合的な占意
実際には、辞職、退場、危うい協力からの離脱、売却、消耗する関係の整理、撤兵、転居、訴訟の損切り、戦略的な縮小に多く応じます。争いに執着せず、当てずっぽうにも決めません。残すべきものは残し、切るべきものは切ります。
項目別の占断
- 戦い:前方の山に伏兵がいる恐れがあり、進めば敗れやすいため戦力を保ちます。
- 経営:売値と買値が大きく離れる時は、市況の誤判を防いで退守します。
- 功名:退いて力を養うのがよく、無理な進見には向きません。正を守れば吉です。
- 家宅と病:山に近く前面が開けた家では隠れた障りに注意します。病因との絡みが深い時は、その環境から離れます。
- 婚姻と妊産:正邪が合わない縁は断るのが吉です。妊産は古くからの断で女児と見ます。
- 現代での応用:退職、損切り、撤退、転居、消耗する関係からの離脱では、核心を守り、しがらみを切り分けます。
六爻の要点
- 初六:退くのが遅れて最後尾に残った時は、それ以上行動を広げません。
- 六二:感情、利益、責任に強く縛られたら、本当の義務を見定めます。
- 九三:退こうとしてもつながれたままなら、引き延ばすほど病になります。この時は身近な人を養い整えるに留めます。
- 九四:利益やしがらみを前にしても決然と退ければ、君子には吉です。
- 九五:適切な時に穏やかで正当な退き方をすれば、吉を得ます。
- 上九:もはや拘束も負担もなく、ゆとりをもって退けば不利はありません。
実際の読み方
協力では、核心となる資源と契約の境界を守ります。感情では、相手の勢いが正しくないなら、謝絶する方が絡み続けるよりまさります。投資では、相場の開きが大きすぎる時に退きます。職場では、組織の風気がすでに変わったなら、体面を保って退くことがそのまま亨になります。
初爻
退き遅れて尾が残るなら、これ以上前へ出ないほど災いは軽くなります。
原文
初六:遁尾、厲、勿用有攸往。
書き下し文
初六、遁るるに尾たり、厲し、往く攸有るを用うる勿かれ。
現代語訳
退く時に尾を残して危ういです。進む先を持とうとしてはいけません。
爻辞の読み解き
退くと言いながら痕跡や未練を残せば危うく、そこからさらに前へ出るのは禁物です。初爻は艮の始めで、艮には穴居の象も尾の象もあります。そこで遯尾と言います。本当に身を避ける者は、山に入れば深くないことを恐れ、林に入れば密でないことを恐れます。後ろに足跡を残して人目に触れるのを嫌います。退いて尾を隠せないなら、まだ退いたとは言えません。
遯尾の危うさは、退き方が徹底しないところにあります。頭では退くと言いながら、尾はまだ元の場に残っている。口では避けると言いながら、内心では別の前進を狙っている。これでは功が成らないうちに失いが来ます。爻辞が往くなと言い、象伝が往かずば何の災いあらんと言うのは、ここで前へ出なければ一段の災いを免れるからです。
実際の読み方
戦いでは、伏兵は深く隠すものです。頭を隠して尾を露すくらいなら、行かない方がまさります。売買では貨物を速く売り、首尾をそろえて了結し、遅れて災いを受けないようにします。功名には龍門焼尾の象があり、関門を越えられれば吉です。家宅は速く移るのがよく、遅れれば災いがあります。婚姻は合わないので、遠ざかるのがよいでしょう。妊産は、旧断では女児と見ます。
高島の占例
ある友人が気運を占って、遯が同人に変じました。高島は、四陽が外にあり二陰が内にあって陽が消え陰が長じる形、つまり好運がすでに退く象だと読みました。初爻の遯尾は、好運が去って尾末だけが残るという意味です。だから退き守って前へ出てはいけません。運は五年を一度とし、上六の無不利へ至る頃にようやく広くなる、と断じました。
二爻
柔らかく見える縛りほど解けません。礼や情が人を留めるからです。
原文
六二:執之用黄牛之革、莫之勝説。
書き下し文
六二、之を執うるに黄牛の革を用う、之を説くに勝うる莫し。
現代語訳
黄牛の革でこれをしっかり縛ります。解こうとしても解けません。
爻辞の読み解き
柔らかく見える結びつきほど、人を逃がしません。黄は中正の色、牛は柔順、革は堅くしなやかです。艮は皮であり手であり、坤の気は黄牛に当たります。黄牛の革で縛るとは、見た目は温和でありながら、解こうとしても解けない結びつきを言います。
この爻だけは扱いが違います。六爻の多くは遯を語りますが、六二は遯と言いません。真に遯れようとするのは諸陽であり、その陽を追い退かせながら、礼や利益や情分で籠絡して逃がさないのが六二だからです。六二は九五に応じますが、表面の応は実のところ迫りです。退かせておいて、なお固く繋ぎとめます。六二の固志は九五の正志とは別のもので、五の志を固めて退けなくする力です。
実際の読み方
戦いでは、諸軍が逃げ散ろうとする時に固く守れる者を嘉します。経営では、相場が上がる時に旧本へ執着して、かえって売り抜けにくくなります。功名では、席珍待聘、美玉待沽の象がある一方、困難に縛られて脱しにくいこともあります。家宅は陰気が長じ、移りたくてもすぐには売れません。婚姻は、成った後で退悔しようとしても難しく、仲介者が苦労します。産み月については、古い占断が女子を示します。
高島の占例
占例1
別の折、気運を占った友人は遯が姤に変じる爻を得ました。人が運に縛られる様は黄牛の革のようで、志願があっても施しようがありません。これが運の退く象だと高島は読みました。
占例2
明治二十九年に皇国の気運を占った折には、三国干渉やロシアとフランスによる清国償金の斡旋を例に挙げています。欧州列強が競って利を図り、清国の手足を黄牛の革で縛るようにし、日本をも籠絡しようとしている、というのが見立てです。その上で、日本は志を固く守り、内に軍備を修め、外に辞令を善くして、束縛を受けてはならないと説きました。
三爻
絡みが残れば退くに退けません。小さな務めは保てても、大局は遅れます。
原文
九三:係遁、有疾厲、畜臣妾吉。
書き下し文
九三、係がるる遁なり、疾有りて厲し、臣妾を畜うは吉なり。
現代語訳
退こうとしても繋がれています。病があり危ういです。臣や妾を養うには吉です。
爻辞の読み解き
牽かれて退けないのは危ういことです。ただし小さな従属の事務を残す程度なら吉になります。繋は羈絆を指します。九三は陽剛で内卦の上にあり、六二と親しく比します。二陰に牽かれて、すっぱりと遠くへ引けません。退こうとして志が決まらないので繋遯と言います。
退くべき時の退避は、早く遠いほどよいものです。引き止める繋がりがあって憂い疑えば、身に病を抱えたように危うくなります。ここは一段細かく分けて読みます。三が二陰に繋がれるのは、陰が陽を繋ぐ形なので危ういところです。しかし三が陽をもって二陰を畜え、臣妾として使令の用に安んじるなら、大節に関わらず、かえって吉となります。家用、従属の事務、小さな附属なら残せます。ただし人生の大節や大局の転身では、小さな絡みに大事を誤らせてはいけません。
実際の読み方
戦いでは進退に規律が要ります。鼓で進み金で退く、その一瞬が遅れれば大敗を招きます。経営では、売る時に価格を惜しんではいけません。功名では、奸人が政を執る時は急流勇退がまさります。家宅は病厄が多いので、速く移るのがよいでしょう。婚姻は正式な大承諾には不利で、小さな取り決めだけなら保てる場合もあります。子を宿していれば、古法では女児と読みます。
高島の占例
商業の盛衰を問われた時には、遯が否に変じる九三が出ました。九三は二陰を恋って退くに決せず、商業が失敗する象だと高島は読みました。売るべき時には貨物を速く売るのが肝心です。元金を惜しんで迷えば、相場は日ごとに下がり、損は膨らみます。臣妾を畜う吉とは、残った資本で家を養う程度なら差し支えないが、商業を再興しようとしてはならない、という意味です。
四爻
好意にも利にも縛られずに退けるか。そこで君子と小人が分かれます。
原文
九四:好遁君子吉、小人否。
書き下し文
九四、好みて遁る、君子は吉なり、小人は否なり。
現代語訳
好ましい退き方です。君子には吉ですが、小人にはうまくいきません。
爻辞の読み解き
好意や利益に絡まれても、君子ならそれに縛られずに退けます。九四は初六と応じ、初六は九四に好意を寄せる形です。しかしその好意が真に善いものとは限りません。九四の地位や名望を借りて、自分を重く見せようとすることもあります。九四はそれを見抜き、情好に縛られず、超然として遠く引きます。だから好遯です。
好には二つの意味があります。一つは、人が自分を好んでも、その好意には附かないという意味です。あなたが私を好んでも、私はそのために附きません。もう一つは、自分の好むところに従って退くという意味です。世人は富貴功名を好みますが、君子は天を楽しみ命を知ることを好みます。自分の志で退き、爵禄や情面に引かれないので吉です。権位に恋う小人には、この退き方ができません。
実際の読み方
戦いでは、軍中に罠を設ける者があれば、退いて避けるのも吉です。経営では、買入れを進、売出しを退と見て、今は出荷して利を得ます。功名では、本人に功名心がない場合、それが真の高節か虚名かで分かれます。病は転危為安の象がありますが、明医に遇う必要があります。婚姻は後の離異に注意します。訴訟は走るを上策とします。妊産は、古くから男児の象と伝わります。
高島の占例
占例1
親しい友の気運を見た時は、遯が漸に変じる九四でした。高島は、その職位に邪正の入り混じった僚属があり、表向きは情誼が厚くとも内には奸計が多いと見ます。声色に出さず、決然と引退するのが最上だと断じました。後に官制改革で非職の命を受けています。
占例2
杉浦重剛が千島艦事件をめぐる英国との再交渉を問うた時も、同じ爻でした。当時の大勢は曲直よりも強弱で決まり、日本が公法を立てても直を得にくい情勢です。退避して事を了えるのがよい、という断でした。
五爻
名分と時機の正しい退き方なら、退くこと自体が吉になります。
原文
九五:嘉遁、貞吉。
書き下し文
九五、嘉き遁なり、貞にして吉なり。
現代語訳
立派に退きます。正しく守れば吉です。
爻辞の読み解き
退き方が正しく美しければ、退くこと自体が吉になります。九五は陽で陽位に居り、剛健中正です。六二に応じていますが、時勢を審らかにし、微かな兆しを知って、超然と遠く退けます。その退きは情に動かされたものでも、形勢に折られたものでもありません。志が定まり、向かう方向が正しいので嘉すべきです。
象伝は「志を正しくするを以てなり」と言います。九五の退きは、六二の固志に対して正志をもって退くものです。大象の不悪而厳にもかないます。怒って逃げるのでも、狼狽して退くのでもありません。手続きも名分も時機も志向も正しいので、退くことそのものが美事になります。
実際の読み方
戦いでは、敵勢が強い時に潜かに退いて軍を保全できれば称すべきです。経営では、貨物が当地で値に合わなければ、別の地へ移して利を得ます。応変しながら正を失わない形です。功名では高位に近く、功成って身を退けば吉です。家宅は諸葛の草廬、陶令の旧宅のように、高風を尚ぶ象があります。婚姻は二と五が応じても志が異なるので、謝絶して別に聘するのが吉です。病は陰邪の絡みつきを避け、潜かに調養すれば吉となります。出産については、旧来の断が男児を示します。
高島の占例
高島の親友、永井泰次郎の妻が身ごもった折、宴席で男女を占い、遯が旅に変じる九五を得ました。九五は乾に属し、陽が陽位に居るので男児の兆しと読みます。乾は父、艮は少男で、少男が父を継ぐ象があります。老父が財を譲って隠居する形も遯の意に合います。爻辞の嘉遯、貞吉は子が家を継げることを示し、後に実際、男児が生まれました。
上爻
絡みも負担もない退き方です。身も道も損なわず、不利はありません。
原文
上九:肥遁、無不利。
書き下し文
上九、肥かなる遁なり、利あらざる無し。
現代語訳
ゆったり豊かに退きます。何事にも利があります。
爻辞の読み解き
何にも縛られず余裕をもって退けるので、どこにも不利がありません。肥は余裕であり、豊かさです。遯卦の他の爻は、退きたくてもどこかに牽かれています。尾が露れたり、執えられたり、繋がれたり、好意に牽かれたりします。上九だけは応も比もなく、誰にも縛られず、心を煩わせるものもありません。だから飄然と遠く引くことができ、進退に余裕が生まれます。
象伝は「疑う所なきなり」と言います。上九は乾陽の最上にあって形勢を明らかに見、機を察してただちに高く退くので、少しの疑いもありません。嘉遯を微子や張良に、肥遯を太伯、伯夷、商山四皓になぞらえます。困って逃げるのとは違い、道義が足り、身心に余裕があるから退けるのです。
実際の読み方
戦いでは普通、進むのがよく、遯はよくありません。ただし太王が狄を避けて岐へ移ったように、根本を保つための退きなら大いに利があります。経営では、皆が競って追う時に、一人だけ人の捨てるものを取り、退きながら進む形で厚利を得ることがあります。功名では、膏粱で口を肥やすより、道義で身を肥やします。家宅は地位が高く家道が富み、財を求めるには利があり、名を求めるには不利です。病は、肥えた人の気虚と虚脱を防ぎます。婚姻は、富家に恋しての私奔を防ぎます。妊産は、古占の伝で男子に当たります。
高島の占例
明治十八年、中央アジアのアフガニスタン境界問題で英露が緊張し、各国が和戦を議した折、高島は遯が咸に変じる上九を得ました。内卦の山止を英国、外卦の天健をロシアに配します。英国は備えを整えても大戦の意は薄く、ロシアは健やかに進んで退くことを知らず、開戦の意があります。合卦の遯は英国の気運、反卦の大壮はロシアの気運です。英国はひたすら厳守して、ロシアに隙を与えなければよいと断じました。
天山遯:読みの覚え
天山遯は、退くべき時に退く卦です。狼狽して逃げ出すのとは違い、争うに適さない場面で自ら身を引きます。きれいに退けてこそ道を保て、後日また動く余地も残ります。
退くなら、きれいに退く
天が上にあり、山は下に止まって、両者はもともと遠く隔たっています。形勢からしても、正面からぶつかる場面ではありません。遯で問われるのは怖いかどうかより、退き方が醒めているかどうかです。戦いに恋々とせず、信を失わず、撤退を責任逃れにしないこと。腰を上げる前に、今は形勢が進むに適さないのか、それとも自分が進む勇気を持てないだけなのか、そこを言葉にしておきます。この一退で守りたいのは名声か、実力か、心の正しさか。三つを同時に抱えられるとは限りませんから、順序を先に決めます。実力も名節も残せた退き方を、はじめて遯と呼びます。
局面に引きずられない
退職、提携の解消、争いの中断、消耗する関係からの離脱を問う時、遯はしばしばそのまま答えになります。退くべき時に退かなければ、人は少しずつ受け身の側へ押し込まれます。ただし退く前に、帳簿も言い分も責任の所在も片づけ、後日また動けるだけの余地を残します。最も避けたいのは尾を引いたままの撤退です。口では退くと言い、手元には半分残す。退いたように見えて、実は退くことで進もうとしている。この形は、退かないでいるより危うくなります。
否と明夷に照らして読む
天地否は環境そのものが通じない時、遯は自分から退く時です。否では耐える力が、遯では退き時を知る力が問われます。地火明夷はもう一つの退き方で、遯が守るのは立ち位置、明夷が守るのは光です。身をずらすか、明るさを収めるか。三つを並べて読むと、場が塞がった時にまず何を見ればよいかがはっきりします。自分は閉じ込められているのか、まだ動けるのか。動けるなら退き方をきれいにし、動けないなら大事なものを深くしまいます。
天山遯:読みの覚え札記を開く
天山遯は、退くべき時に退く卦です。狼狽して逃げ出すのとは違い、争うに適さない場面で自ら身を引きます。きれいに退けてこそ道を保て、後日また動く余地も残ります。
退くなら、きれいに退く
天が上にあり、山は下に止まって、両者はもともと遠く隔たっています。形勢からしても、正面からぶつかる場面ではありません。遯で問われるのは怖いかどうかより、退き方が醒めているかどうかです。戦いに恋々とせず、信を失わず、撤退を責任逃れにしないこと。腰を上げる前に、今は形勢が進むに適さないのか、それとも自分が進む勇気を持てないだけなのか、そこを言葉にしておきます。この一退で守りたいのは名声か、実力か、心の正しさか。三つを同時に抱えられるとは限りませんから、順序を先に決めます。実力も名節も残せた退き方を、はじめて遯と呼びます。
局面に引きずられない
退職、提携の解消、争いの中断、消耗する関係からの離脱を問う時、遯はしばしばそのまま答えになります。退くべき時に退かなければ、人は少しずつ受け身の側へ押し込まれます。ただし退く前に、帳簿も言い分も責任の所在も片づけ、後日また動けるだけの余地を残します。最も避けたいのは尾を引いたままの撤退です。口では退くと言い、手元には半分残す。退いたように見えて、実は退くことで進もうとしている。この形は、退かないでいるより危うくなります。
否と明夷に照らして読む
天地否は環境そのものが通じない時、遯は自分から退く時です。否では耐える力が、遯では退き時を知る力が問われます。地火明夷はもう一つの退き方で、遯が守るのは立ち位置、明夷が守るのは光です。身をずらすか、明るさを収めるか。三つを並べて読むと、場が塞がった時にまず何を見ればよいかがはっきりします。自分は閉じ込められているのか、まだ動けるのか。動けるなら退き方をきれいにし、動けないなら大事なものを深くしまいます。
この卦を読む前に
本卦、動爻、問いを照らす
卦は一ページだけで読み切るより、問いの置き方、動いた爻、六十四卦全体の流れと合わせて見ると見え方が落ち着きます。
関連記事
本卦の問い
どこまで退けば遯になりますか。
相手の場に引きずられなくなるところまでです。遯は打ち負かされた退却ではなく、自分から間合いを取って力を残す動きです。早めに退けば、主導権はむしろ手元に残ります。
遯と、ただ逃げることは、どこで見分けますか。
後始末で分かります。責任も帳簿も境界も引き渡してから退くのが遯です。向き合えないまま散らかして去るのは逃避で、外形は似ていても中身は別物です。
人間関係の相談で遯が出たら、どう読みますか。
まず、この関係をこれ以上すり減らして続ける場面かどうかを見ます。離れることで尊厳も善意も境界も守れるなら、恨みの中に自分を沈める必要はありません。離れることは絶縁と同じではなく、互いに息のできる距離まで下がるだけです。
どこまで退けば遯になりますか。開く
相手の場に引きずられなくなるところまでです。遯は打ち負かされた退却ではなく、自分から間合いを取って力を残す動きです。早めに退けば、主導権はむしろ手元に残ります。
遯と、ただ逃げることは、どこで見分けますか。開く
後始末で分かります。責任も帳簿も境界も引き渡してから退くのが遯です。向き合えないまま散らかして去るのは逃避で、外形は似ていても中身は別物です。
人間関係の相談で遯が出たら、どう読みますか。開く
まず、この関係をこれ以上すり減らして続ける場面かどうかを見ます。離れることで尊厳も善意も境界も守れるなら、恨みの中に自分を沈める必要はありません。離れることは絶縁と同じではなく、互いに息のできる距離まで下がるだけです。
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