高島易断
天地否|意味・卦辞爻辞解説
天地否䷋:一言で読む 天地否は、閉じて通じない卦です。外形は整って見えても、天と地の気が交わらず、上下、人心、資源の通路が切れています。 現代語訳 否は上が乾天、下が坤地です。形だけなら天が上、地が下で自然に見えます。しかしここでも易が見るのは気の交通です。天の気は上へ行くばかりで下らず、地の気は下へ沈むばかりで上らない。陰陽が呼吸せず、万物は通じません。高島は「否」の字を、口が何かに塞がれて息が通らない形として読みます。医書の「心下痞硬」の痞も、胸腹が詰まって通らないという同じ感覚です。
導入
一言で読む
天地否は、閉じて通じない卦です。外形は整って見えても、天と地の気が交わらず、上下、人心、資源の通路が切れています。
現代語訳
否は上が乾天、下が坤地です。形だけなら天が上、地が下で自然に見えます。しかしここでも易が見るのは気の交通です。天の気は上へ行くばかりで下らず、地の気は下へ沈むばかりで上らない。陰陽が呼吸せず、万物は通じません。高島は「否」の字を、口が何かに塞がれて息が通らない形として読みます。医書の「心下痞硬」の痞も、胸腹が詰まって通らないという同じ感覚です。
人事では、上が下を聞かず、下が上を信じず、内側では小人や私欲が主事し、外側だけは強い殻を持つ状態です。否は普通の不順ではありません。少し努力すればすぐ通る滞りではなく、仕組みそのものが閉じ、正しい言葉が届かず、よい人が力を発揮しにくい時です。高島は泰と否を対にして読みます。泰は天地の気が交わり、君子の道が伸びる。否は天地の気が交わらず、小人の道が伸びる。ただし、否の中にも君子はいます。問題は、君子の道が今は行われにくいことです。
実際の読み方
否を得た時は、まず通そうと焦らず、何が閉じているかを見ます。情報か、利益か、信頼か、権限か。組織なら誰が実際に主事しているか。関係なら本音が届く通路があるか。仕事なら、正しい提案がしかるべき人へ届くか。
基本は、縮める、徳を守る、難を避ける、支出を抑える、器を隠して時を待つことです。悪い仕組みの中で名誉や利益を求めすぎると、得たものが後の災いになります。否は「努力するな」ではありません。正道を壊さず、悪い局に呑まれず、通る時を待つ卦です。
卦辞
一言で読む
上下が通わない時は、正しい人ほど無理に栄達を求めず、閉じた局から身を守るべきです。
現代語訳
否は人の道として通じる局面ではありません。君子が正しさによって進むには利がなく、大きいものが去り、小さいものが来ます。「匪人」は単に相手を悪人と罵る言葉ではありません。天地が交わらず、上下が通じず、人の道としての交流が成り立たない局面です。内卦は坤の陰、外卦は乾の陽です。外は剛健で強く、権威があるように見えます。しかし内は陰で、柔弱で、正気が足りない。外陽内陰、外剛内柔、外は君子のようで内は小人という危険な形です。
「不利君子貞」は、君子が正を守ってはいけないという意味ではありません。正を守ること自体は必要です。ただし、その正を今の閉じた仕組みの中で栄達や名誉に変えようとするのは不利です。大きく正しいものは退き、小さく狭いものが来ています。正道が一時施せないなら、正道を売って現在の禄を取りに行くべきではありません。
実際の読み方
仕事では、組織の上下が断ち切れているなら、無理に昇進や権限を求めません。共同事業では、相手の外見が強くても、内部の帳簿、責任、人品が不正なら退きます。財務では、買い入れて隠し待つ方がよく、見えない局で急いで売り抜けるのは難しい場合があります。関係では、分離と隔絶を読み、説得だけで通そうとしません。
もし「この地位、この協力、この名声、この好条件を受けるべきか」と問うなら、否はその好条件が閉塞した仕組みから来ていないかを見よ、と言います。悪い仕組みから来る禄は、福ではなく引き込みの鉤かもしれません。
彖伝
一言で読む
外形が強く見えても、天地と上下が交わらなければ、よい道は閉じ小さな私利が伸びます。
現代語訳
天地が交わらないので万物は通じません。上下が交わらないので天下は国として成り立ちません。内は陰で外は陽、内は柔で外は剛、内は小人で外は君子です。小人の道が伸び、君子の道が消えていきます。高島は、これを大旱のように説明します。天気が下らず、地の精が上らず、太陽は赤く焼け、五穀は実らず、飢饉が起こる。自然の否は、人の暮らしを枯らします。人事でも同じです。君臣が背き、上下が離れ、内政が修まらず、外乱が迫る。天地も人も存在しているのに、正しい働きが発生しません。
小人の道が伸び、君子の道が消すとは、よい人がこの世から消えるという意味ではありません。よい人の道が通らず、声が届かず、用いられず、悪い習慣や小さな私利が伸びていくということです。否の怖さは、外が強そうに見えることです。権威、制度、金、看板、軍勢、名声はある。しかし内側に正気と交通がなければ、外の強さはかえって危険になります。
実際の読み方
会社では、一線の問題が上へ届くかを見ます。家庭では、本当の感情や痛みを言えるかを見ます。共同事業では、帳簿、責任、決定権が透明かを見ます。政治や大きな組織では、下情を制度が吸収できるかを見ます。通らないなら否です。
否をただ「運が悪い」と読むと浅くなります。これは構造の卦です。どこで気が止まり、誰が主事し、どの道が閉じているのか。そこを見つけ、悪い機構からいったん身を守ることが、彖伝の読みになります。
象伝
一言で読む
道が閉じている時は、才を誇らず徳を守り、危ない禄や肩書きで栄えようとしないことです。
現代語訳
天地が交わらないのが否です。君子はこれを見て、徳を控えめにし、難を避け、禄によって栄えようとはしません。高島は、否の時は君臣が相背き、上下が離反し、無道の極みになりやすいと見ます。こういう時に賢人は身を潜め、徳を修め、禄を避けます。なぜなら、否の時の禄は必ずしも福ではなく、災いを引き寄せる入口になり得るからです。
「倹徳」は、ただ質素に暮らすことだけではありません。光を隠し、才を誇らず、欲を小さくし、自分を悪い局の利用対象にしないことです。禄を栄えとしないとは、地位、給料、名誉、肩書きを自分の価値の中心に置かないということです。道が通る時が来れば出ればよい。道が閉じている時に、無理に栄えようとすれば、禄と一緒に難が来ます。
実際の読み方
現実には、不透明な好条件を断る力が必要です。高すぎる報酬、説明できない肩書き、名ばかりの役職、責任だけ負わされる地位、悪い組織の表看板になる依頼には注意します。支出を抑え、借金や見栄を減らし、信用と独立判断を保ちます。少数の信頼できる関係を守り、能力を磨き続けます。
否の修養は、世を捨てることではありません。悪い局面の中で自分まで悪くならないようにすることです。通らない時に無理に光ろうとせず、徳を細く長く守る。これが難を避ける道です。
占断
一言で読む
否を得た時は、閉塞、分離、上下不信、商売の停滞、胸腹のつかえを読みます。吉は守り、隠し、倹しくし、避けることにあります。
現代語訳
高島の占断では、否の時運は諸事に宜しくなく、慎んで守り、妄動しません。経営や商売では、買い入れて隠し、時価を待てば後で利がありますが、急いで売るのはよくありません。戦いでは攻めず退守します。家業は勤倹で禍を免れます。病では痞隔や閉塞、飲食の不節を見ます。婚嫁には分離の象があり、失物は戻りにくいとします。
六爻は、否の中でどう身を処すかを示します。初六は、閉塞の初めに正しい仲間と根で連なり守る。六二は、小人なら権勢に順承して一時吉を得るが、大人は否を認めて守正する。六三は、内に羞を包み、悪い局を隠す。九四は、正当な命と授権によって転機が来る。九五は、否が休み始めるが、亡ぶかもしれないと恐れて根本へ結ぶ。上九は、否が傾き、先に塞がって後に喜ぶ。
実際の読み方
仕事では、まず核心能力と信用を守ります。今は顕達を急がず、閉じた組織で自分を消耗させません。商売では、小さな利を守り、大きな賭けを避けます。関係では、断絶期に無理やり通そうとせず、時間、仲介、構造の変化を待ちます。健康では、胸腹の詰まり、消化、飲食、憂鬱を軽く見ません。
蚕糸の売買で、横浜の価格上昇を見て大量仕入れを考えた人に、高島は否の六二から「大金が出て、小利が戻る」と読み、日々の小口売買に留めよと勧めました。後に相場が急落し、その人だけ大損を免れました。否は、見えない閉塞の中で大きく張らない卦です。
初爻
一言で読む
閉塞の初めは、信頼できる同道と正を守れば、まだ通じる余地があります。
現代語訳
茅を抜くと根がつながり、その仲間も一緒に抜けます。正しければ吉で、通ります。この言葉は泰の初九に似ていますが、気運は正反対です。泰の初は君子が同類と共に進む爻でした。否の初は、閉塞が起こり始める中で、正しい人が同類と共に守る爻です。下卦の坤は否の中の否で、三陰が根で連なります。初六にはまだ君へ向かう志があり、完全に絶望する段階ではありません。
高島は、否の初めには孤立しないことを重んじます。悪い局面では、一人で力ずくで突くより、信頼できる同道と節用し、正を保ち、機を待つ方がよいのです。
実際の読み方
仕事では、独りで抱え込まず、信用できる仲間と小さな範囲で守ります。新事業なら、人選を厳しくし、広げすぎません。家庭では、親族や同居者が協力して節約すれば吉です。病では、伝染や広がりに注意しますが、初めなら大害に至らない読みもあります。
この爻の吉は、大きく展開する吉ではありません。悪い時勢の中で、同道と正を失わず、一線の通りを保つ吉です。
二爻
一言で読む
閉じた権勢に合わせれば小利はありますが、大人は迎合せず否を認めて正を守ります。
現代語訳
包み承けます。小人には吉ですが、大人には否であり、通ります。六二は柔中で、上の権勢を包み承けることができます。否の局では、小人は迎合し、上意を受け、権力の空気に合わせることで一時の便利を得ます。だから小人には吉です。しかし大人が同じことをすれば、大人の道を失います。大人は、自分が否の中にいることを認め、迎合で通ろうとせず、正を守ることで別の意味の亨を得ます。
高島はこの爻を商売にも訴訟にも使います。閉じた市況では、表面上うまく合わせれば小利は取れるかもしれません。しかし賄賂、偽造、不透明な取引、過大な賭けに入れば、否の閉塞に呑まれます。
実際の読み方
職場では、上に合わせるだけで生き残る人を見て焦らないことです。自分が守るべき原則まで売って同じことをしてはいけません。商売では、その日の小口売買や保守的な利は取れても、大金を賭けるのは危険です。訴訟や官との関係では、不正な手段を疑い、証拠と手順を守ります。
蚕糸相場の占例で、高島が大口仕入れを止め、小さな仲介利に留めよと読んだのは、この六二です。閉塞した市場では、機敏な小利で身を守れても、大きな財で小人の局へ入ると危険です。
三爻
一言で読む
内側の恥を隠し続けるほど閉塞は深くなるので、早く認めて止血すべきです。
現代語訳
羞を包みます。六三は不中不正で、否の内側にいます。小人の道が伸びる時、自分でも内実の恥を知りながら、それを包み隠して離れようとしません。高島は、商売なら内部の暗耗を外へ見せず、家宅なら内行が修まらず、戦いなら敵に囲まれる危険があると読みます。
否の悪化は、しばしば一日で起こりません。多くの人が「これは恥ずべきことだ」と知りながら、体面、利益、役職、恐れのために隠し続けます。これが包羞です。隠せば一時は保てるように見えますが、実際には閉塞を深くします。
実際の読み方
会社では、粉飾、帳簿の隠し、見栄のための事業、実態のない繁栄を疑います。個人では、地位や給料のために不正な環境へ居続けていないかを見ます。関係では、不正な名分や隠し事を包み続けないことです。競争では、まず囲まれないように退路を見ます。
六三の処方は、飾ることではなく止血です。早く認め、範囲を限り、責任を明らかにし、必要なら離れます。包羞より早改の方が、否を軽くします。
四爻
一言で読む
閉塞の中でも、正当な命令と授権が来れば転機となり、同類にも福が及びます。
現代語訳
命があります。咎はありません。同類も福につきます。九四は下卦の陰塞を出て、上卦の陽に入ります。否はまだ終わっていませんが、陽道が働き始める場所です。高島は、目下に盛運の転機があり、商業では前に失ったものを復し、家宅では宅運が転じ、戦いでは命を受けた将が出れば吉、病では命根がまだ固いと読みます。
ただし鍵は「有命」です。私的な焦りで乱動するのではありません。正当な命令、名分、授権、紹介、時機がそろうから無咎になります。さらに「畴」は同類です。一人だけでなく、同じ志を持つ人々も福に及びます。
実際の読み方
仕事では、正式な任命、契約、紹介、権限が来るまで待ちます。転機が見えたら、市場や条件をよく審べて動きます。組織では、正しい仲間を集めて進めます。病では、根がまだ保てるなら、正しい治療に従います。
高島が『易断』を著そうとして、根本通明に易に通じ文章力ある人を紹介してもらい、斎藤真男を得た占がこの九四です。閉塞していた志が、正当な紹介と適任の人によって通じました。九四は、否の中の転機は「正命」と「適任者」によって来ると教えます。
五爻
一言で読む
閉塞が休み始めた時こそ、滅びを恐れて根本に結び直す慎重さが必要です。
現代語訳
否を休めます。大人には吉です。亡ぶかもしれない、亡ぶかもしれないと思い、根の強い桑の叢につなぎます。九五は中正の尊位にあり、否を止め始めます。閉塞が永久に続くわけではありません。しかし高島は、この好転の時こそ危険を忘れるなと強く戒めます。「其亡其亡」とは、常に失うかもしれない、滅ぶかもしれないと思うことです。「苞桑」は、根の強い桑の叢です。落ちそうなものを、柔らかくても根の強い所へ結びつける象です。
休否は、否が完全になくなったという意味ではありません。やっと休み始めた段階です。ここで浮かれて拡張すれば、再び閉じます。頼るべきは根本、伝統、信頼できる人、堅い制度、長く保てる資金です。
実際の読み方
リーダーなら、好転の兆しが見えても安全綱を作ります。事業なら、回復期ほど急拡大せず、信用あるパートナーへ替え、慎重に進みます。商売では大きな機会がありますが、実務と相手を選びます。家業では祖業や根本の資産を守ります。病では、よくなりかけても油断しません。
出雲大社の千家尊福が国教の帰着を問うた時、高島は九五から、神道は閉塞していても苞桑の一縷につながっており、古代の太卜神事を復興することで長久を保てると読みました。九五は、復興とは気分ではなく、根本へ結び直すことだと示します。
上爻
一言で読む
閉塞が極まればついに傾きますが、古い否を離れて初めて後の喜びを受け取れます。
現代語訳
否が傾きます。先には塞がり、後には喜びます。上九では、否が極まり、閉じていた構造がついに倒れます。これは少しずつ疏通するというより、古い閉塞の形が傾いて、別の流れが生まれる象です。高島は、時運は通じ始め、春夏はまだ十分でなくても秋冬に吉、訴訟は早く結び、戦いは小敗の後に大勝、移居は大吉で旧宅には留まらない方がよいと読みます。
大切なのは、旧い否が倒れることです。旧い家、旧い怨み、旧い閉じた仕組みに恋々としていれば、後の喜びを受け取れません。否極まれば泰来ると言いますが、その前に、否を否として傾ける必要があります。
実際の読み方
長く止まっていた事業は、構造が変われば動きます。争いは結案へ向かいます。住居や職場では、動く方が吉になることがあります。競争では、初めに小さな挫折があっても、後で大きく転じます。関係では、昔の隔たりが解け、再び話が通ることがあります。
横浜の商人が東京の旧友と大事を謀ろうとした占で、高島は、二人は以前の事情で疎遠になり心気が通っていなかったが、否が上爻まで来たので前嫌は解け、再び旧好を結べると読みました。後にその通りになりました。上九は、すべての閉塞が永遠ではないこと、ただし旧否を離れてこそ喜びが来ることを教えます。
天地否:読みの覚え
天地否は、形はあっても気が通わない卦です。上と下、人と人、目的と現場が離れている時、無理な栄達は身を傷めます。
通じない場で無理に通そうとしない
否では、閉塞を力でこじ開けようとすると傷が深くなります。才を隠し、徳を守り、危うい利や肩書きに寄らないことが身を保ちます。
ここで大切なのは、諦めではなく保存です。通じない場に自分の正しさを売らず、再び通る時を待てる形を残します。
立てておきたい問い
- 通っていないのは、情報ですか、信頼ですか、価値観ですか。 - 閉じた場に合わせて、自分の正しさを売っていませんか。 - 退くべき所と、静かに守るべき所を分けられていますか。
拡大より消耗を止める
職場の停滞、関係の冷え、商流の詰まりでは、無理な拡大を止めます。支出を抑え、関係を見直し、閉塞が緩む小さな兆しを待つ。否の時は、守り方が次の道を作ります。
あわせて読む
地天泰が通じる時なら、天地否は通じない時です。天山遯と読むと、閉塞の中でどこまで身を引くべきかが見えてきます。
本卦の問い
通っていないのは、情報ですか、信頼ですか、価値観ですか。
何が詰まっているかで打ち手は変わります。情報なら整理、信頼なら時間、価値観なら距離が必要です。全部を力で押すと傷が深まります。
閉じた場に合わせて、自分の正しさを売っていませんか。
短い利益や肩書きのために、守るべき判断を曲げていないかを見ます。否の時ほど、外から見えにくい徳を守ることが大切です。
退くべき所と、静かに守るべき所を分けられていますか。
全部を捨てる必要はありません。危うい場からは退き、守るべき技術、信頼、生活、身体は静かに保ちます。
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