六十四卦 意味・読み方
山沢損|意味・卦辞爻辞解説(さんたくそん)
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本ページは公開資料をもとに、卦辞、彖伝、象伝、占断、爻辞、占例を現代日本語で整理したものです。
引
余分な費えと怒りと欲を減らし、上下の均衡を取り戻す時です。
卦象と卦名
損は上が艮の山、下が兌の沢です。山は高く、沢は低い。下から減らして上へ補うように見えるので、損下益上といいます。もっとも、易のいう損は下の者を苦しめて上を肥やす話ではありません。時にかなったものを減らし、全体を整えるところに道があります。
卦の中心的な意味
損と益は、道理の上では反対を向きながら、実際には互いを成り立たせます。損だけを見れば悪いことに思えますが、余分を削る損は後の益になります。逆に益ばかり求めれば、増えすぎて根を傷め、結局は損に戻ります。物事は初めは簡素で後に繁り、礼も初めは倹約で後に奢り、器も初めは空で後に満ちる。だから易は損を先に置き、次に益を置きました。
この卦を読むときは、何を減らすのかをはっきり見ます。欲望、虚費、病根、余った人手、足を引く関係を減らすのか。それとも、本当に事を支えている人や資源まで削ってしまうのか。前者はよい損、後者は誤った損です。正しく損すれば大吉にもなりますが、時を誤ると、倹約は冷たさに変わり、節約が人を傷つける力になります。
向いている問い
損を得たら、「自分は損をするのか」とだけ問うても足りません。何を、どの程度、いつ、どんな誠意で減らすのか。そこまで問います。
誠意のない削減は、ただの利己に見えます。誠意があり、筋が通り、分量が合っていれば、減らすことそのものが局面を救う力になります。
卦辞
誠さえ通っていれば、供えが二簋でも礼は立ちます。
原文
損:有孚、元吉。無咎、可貞、利有攸往。曷之用?二簋可用享。
書き下し文
損は、孚有れば元いに吉なり。咎なし、貞にすべし、往く攸有るに利あり。曷をか之れ用いん。二簋も用て享すべし。
現代語訳
損には真心があります。大いに吉で、咎はありません。正しく守るべきです。行く所があるのに利があります。何を用いるかといえば、二つの簋で祭ってもよい。
卦辞の読み解き
減らす時も誠があれば、簡素なままで礼は通じます。
中心は「有孚」です。損は人を不快にしやすいものでした。少なく渡す、少なく使う、少なく楽しむ、少なく約束する。どれもけちだと疑われ、自分だけ得をしたいのだろうと勘ぐられます。だからこそ内側の誠が要ります。人を削って自分を肥やすのではありません。時に合い、礼に合い、大局のために節しているのだと信じてもらえたとき、損は怨みになりません。
「二簋可用享」が許すのは供えの薄さであって、祭りそのものの軽視ではありません。物が薄くても心が真であれば通ります。現代に置き直せば、資源が少ない時に無理な立派さを装う必要はなく、予算が苦しい時に見栄を張ることもありません。誠実で、透明で、分量が合っていれば、簡素なままで礼は成ります。
実際の読み方
財務なら、予算を減らす理由を明らかにし、関係者が納得できるようにします。恋愛や家族なら、欲求やこだわりを減らすのはよいのですが、真心まで削ってはいけません。
組織なら、経費の削減は公開の場で公正に行い、下の人だけを損してはいけません。修身なら、まず怒りと欲を減らします。外の節約より、ここが根本です。
彖曰
余る所から減らして足りない所へ回す。損は時に合わせた調整です。
原文
損、損下益上、其道上行。損而有孚、元吉、無咎、可貞、利有攸往。曷之用?二簋可用享、二簋応有時。損剛益柔有時、損益盈虚、与時偕行。
書き下し文
損は、下を損して上を益す、其の道上行す。損して孚有れば、元いに吉、咎なく、貞にすべく、往く攸有るに利あり。曷をか之れ用いん。二簋も用て享すべし、二簋も応に時有るべし。剛を損し柔を益すに時有り、損益盈虚は、時と偕に行う。
現代語訳
損とは、下を減らして上を益し、その道が上へ行くことです。損する時にも誠実さがあれば、大いに吉で、咎がなく、正しさを守ることができ、往く所があるのに利があります。何を用いればよいのでしょうか。二つの簋という質素な供え物でも祭祀に用いることができます。ただし二簋を用いるにも、ふさわしい時があります。剛を減らして柔を益すにも時があり、損益・盈満・空虚は、すべて時とともに移り行きます。
彖伝の読み解き
余る所を減らして不足する所へ移し、全体の均衡をつくる。それが損の働きです。卦の成り立ちとしては、下卦の剛を一つ減らし、上卦の柔へ補ったように見ます。だから損下益上、損剛益柔といいます。上の者が下を搾ってよい、と教える言葉ではありません。そこを取り違えると、読み全体が狂います。
「損して孚あり」なら、下は損されても害されたとは思わず、上は益されても貪っているとは見られません。上下に信が通じるので、元吉となります。孚がなければ、下は怨み、上は疑われ、損はただの亀裂に終わります。
「二簋応に時あるべし。損剛益柔に時あり。損益盈虚、時と偕に行く」。ここが損卦のいちばん大切な尺度です。倹約にも時を見ます。損すべき時なら、粗末な食事も礼を失いません。損すべきでない時に安く済ませれば、かえって冷酷に映ります。満ちたものは減らし、虚したものは補い、剛が過ぎれば柔らげ、柔が過ぎれば立てる。固定の公式はなく、時に合わせて行います。
この理は国家にも広がります。田租、税、物資の出入りは、広く見れば損下益上の作用です。平時に民が政府を信じていれば、上が仁政を施し、下は喜んで税や力を出します。有事には、民が糧を出し、軍を迎えることもあります。しかし民心を失えば、どれほど公のための節用だと説いても信じてはもらえません。損卦の初めに有孚を置いたのは、治国と財政の根本を示すためです。
実際の読み方
何かを削る前に、三つを見ます。今は本当に損すべき時か。余っている所から損しているか、それとも根を削っているか。損される人が理由を理解し、信じられるか。
この三つが通れば、損は後の益になります。通らなければ、節約の顔をした破壊です。
象曰
外の財より先に、自分の怒りと欲を減らせますか。
原文
山下有沢、損、君子以懲忿窒欲。
書き下し文
山の下に沢有るは損なり。君子以て忿りを懲らし欲を窒ぐ。
現代語訳
山の下に沢があるのが損です。君子はこれを見て、怒りを懲らし欲をふさぎます。
象伝の読み解き
損の時にまず減らすのは、外の財よりも自分の怒りと欲です。山は沢の気で潤わなければ崩れ、沢は収まりがなければ涸れます。山と沢は、もともと損益が寄り合う間柄です。過ぎれば減らし、足りなければ補います。
人の中でいちばん急に起こり、制しにくいものが怒りです。いちばん深く燃え、断ちにくいものが欲です。怒りが起これば山を抜くほどの勢いになり、欲が深まれば沢の底のように満たしにくくなります。だから君子は損卦を見て、他人をどれだけ減らすかを先に計算しません。自分の怒りを戒め、自分の欲を抑えます。
「怒りを戒める」といっても、まったく怒らない人になれという話ではありません。怒りが起きたとき、物事を壊すところまで走らせない。それだけのことです。「欲を抑える」も、何も求めない境地を指しません。必要を超えた貪りの口をふさぎ、欲望を際限なく広げない。ここまで来て、損はようやく修身の損になります。
実際の読み方
争いを問うなら、まず怒気を減らします。消費を問うなら、まず貪りを減らします。投資なら、偶然の幸運に賭ける心から減らします。仕事なら、虚栄と無効な忙しさを減らします。
外の帳尻は、心の帳尻が合わないままだとますます乱れます。よい減らし方は、たいてい心の中から始まります。
占断
虚費・怒り・欲は削ってよく、誠と根本と要る資源は残します。
総合的な占意
損の占断はとても現実的です。感情を減らし、貪りを減らし、危険を削り、地勢を平らげ、争いを止めます。消極的に引きこもるのとは違います。不要な高低、隔たり、滞った水、怒気を先に片づけて、後の益が入る場所を空けておくのです。
項目別の占断
- 時運:まだ正しい運に乗っていません。怒りと欲を戒め、まず内輪の消耗を減らします。
- 経営と功名:和気を保って利を見定め、感情で利益を損ないません。怒りと欲を除かなければ、功名も長くは保てません。
- 戦い:山の下の低地や深い所にひそむ伏兵を防ぎ、隠れた危険を先に減らします。
- 婚姻と家宅:夫婦の道が正しければ婚姻は成ります。家の地勢が険しければ、水を通して土地を平らかにします。
- 訴訟・失せ物・妊産:感情的に争わず財を貪らなければ訴訟は収まります。失せ物は得にくく、妊産は古占で月の奇偶から男女を見ます。
- 現代での応用:感情、貪欲、重複、危険を減らし、不要な隔たりを除いてこそ、次の増益が入ります。
六爻の要点
- 初九:自分の仕事を済ませてから要所を助け、どれだけ差し出すかを量ります。
- 九二:人を喜ばせるために自分の根本を損なわず、正しさを守る方が利です。
- 六三:人数が多いほど絡みが増す時は、余分な関係を減らすと同行者の心が合います。
- 六四:根本の病因を早く減らせば、助けも速やかに来ます。
- 六五:謙虚に受ければ、得難く貴重な援助を授かります。
- 上九:減らすことを最後には他者と公共への利益へ転じれば、長く続きます。
実際の読み方
金を問われれば、まず虚費を調べます。人事なら余った役割や重複、身体なら病根、関係なら細かい損得勘定。そこを見ます。
正しい場所を減らせて初めて、その後の増益を語れます。
初爻
手が空いたらすぐ助けに行き、差し出す量だけは量ります。
原文
初九:已事遄往、無咎、酌損之。
書き下し文
初九、事を已めて遄かに往けば、咎なし、酌みて之を損す。
現代語訳
今の事をやめて速やかに往けば咎はありません。酌量してこれを損します。
爻辞の読み解き
急いで助けるべき時でも、どれだけ減らすかは量ります。初九はそういう爻です。已事は、今している事をいったん止めてよい、という意味です。遄往は、ぐずぐずせず急いで行くことを指します。事が収められる所まで来たなら、引きずってはいけません。遅れれば、かえって大事を誤ります。
とはいえ損の分量は「酌る」必要があります。速さだけで決めてはいけません。減らすのが遅すぎれば救援が間に合わず、減らし過ぎれば自分の本業まで傷みます。止めれば業を失い、止めなければ公を害する。その境目では軽重を酌量して損せよ、というのです。損の第一課は、速さと節度を同時に持つことにあります。
実際の読み方
時運は、過去を追わず、今すぐ励む時です。戦いでは速やかに兵を進め、輜重や兵糧は量を見て削ります。経営では、運送や売買は早い方がよく、時勢を見て進めば利があります。
功名は速く行けば得られ、遅れれば成りません。婚姻は即日迎えることもよく、家宅は急いで移る象です。訴訟は早く結ぶのがよい時です。
高島の占例
友人が、急に金を借りる必要のある知人を助けられるかと問うて、損が蒙に変じる初九を得ました。高島は、内卦の兌は口であり、口を開いて人に頼む象だと読みます。急な難儀が前にあるのだから、他の事を投げてすぐ助けを求めるべきで、季布の一諾千金のように信を立てれば大過を免れる。「酌損之」とあるのは、借りられる額が多少減っても空手にはならないという意味です。遅れれば、かえって過失があると断じました。
二爻
すでに中を得ているなら、動かさず守ることがそのまま益です。
原文
九二:利貞、征凶、弗損益之。
書き下し文
九二、貞しきに利あり、征けば凶なり、損せずして之を益す。
現代語訳
正しさに利があります。進めば凶です。損しないでこれを益します。
爻辞の読み解き
減らさずに守ることが、そのまま益になる場合があります。九二は内卦の中にあり、中を得ています。物事を損したり益したりするのは、たいてい中を失っているからです。もとから中正であれば、そこを動かす必要はありません。この時は、損しないことがかえって益になります。
「征けば凶」は、何でも改革すべきだ、何でも削るべきだ、何でも前へ進めるべきだ、と構えたときの戒めです。そう考えると、かえって中道を破ります。損卦は目に入るものを片端から減らす卦ではありません。減らすべきものを減らし、減らしてはならないものを守る。九二の知恵は、すでに合っている部分を見抜き、変化のための変化をしないところにあります。
実際の読み方
時運は、よい運が来つつあり、減らしも増やしもせず中を守ればよい時です。戦いでは、兵糧を減らしたり兵を増やしたりするより、中軍を固く守ります。経営では価格がちょうどよく、値を下げる必要はありません。
功名は栄辱ともに大きく動かず、旧を守る方がよいでしょう。婚姻は門戸が相当します。家宅は位置が中を得ており、増改築しない方が無難です。失せ物は、もとの所に残っている象です。
高島の占例
占例1
友人が、兄に代わって出た大阪の米市での大きな買い付けの損を、さらに多額の金を送って挽回すべきかと問いました。損が頤に変じる九二です。高島は、米価の上下がすでに大きく、東京支店の資金まで動かしてはいけない、守ることこそ利貞であり、送金して進めば征凶だと断じました。大阪の損は東京支店を保つことで後に挽回でき、実際その通りになりました。
占例2
ある県令の気運を占ったときも同じ爻で、成規を守るべきであり、妄りに改めて進歩を競えば凶に至ると戒めています。
三爻
三人では心が割れます。減らして二人になれば志が合います。
原文
六三:三人行、則損一人、一人行、則得其友。
書き下し文
六三、三人行けば則ち一人を損し、一人行けば則ち其の友を得。
現代語訳
三人で行けば一人を損し、一人で行けばその友を得ます。
爻辞の読み解き
人数を減らして志を一つにすると、かえって同心の友を得ます。人数の多寡だけを説く爻ではありません。物事は心が合って初めて進みます。三人になると衆となり、意見が分かれ、疑いが生じやすい。一人で行けば志が明らかなので、本当に同心の友が寄ってきます。
天下の事は、一では足りず、三では過ぎ、二でちょうど中を得ます。三人同行なら一人を損して二人にし、一人独行なら一人の友を得て二人になる。二人が同心すれば、志は合わせやすいのです。ここで損するものは財物に限りません。余分な意見、余分な人手、余分な関係のもつれを減らします。
実際の読み方
財運は、少なければ利を得、多すぎれば損します。戦いでは一路に進めば援兵を得ます。経営は一人主宰が最もよく、二人までなら可、それ以上になると損が出やすい時です。
功名は独り往けば成ることもあります。婚姻では、友を得ることがそのまま配偶を得る意味になります。訴訟は、間に入ってそそのかす者を除けば平らぎます。
高島の占例
占例1
明治二十五年、高島が北海道炭鉱鉄道会社の社長となり、赴任前に改革処分を占って、損が大畜に変じる六三を得ました。爻辞を「三分の中の一を損す」と読み、単身で北海道へ渡って役員を三分の一減らし、会社の事務を大いに整えています。
占例2
後に炭鉱の石炭販売を占った時も同じ爻で、少なければ利を得、多ければ損がある、劣った品を先に去れば後に値が益すと読みました。
占例3
友人の事業の成否を見た折には、多人数で起こすと意見が多くなる、一人で主導して後に同心の友を得る方がよい、と断じています。
占例4
政治向きの占いでも、自由党が三人を入閣させようとした件をこの爻で読み、一人を損するか、一人だけが用いられるかと見ました。後に党内の猜疑で事は止まりました。
四爻
病根は早く抜くほどよく、遅れれば憂いは喜びに変わりません。
原文
六四:損其疾、使遄有喜、無咎。
書き下し文
六四、其の疾を損し、遄かならしめば喜び有り、咎なし。
現代語訳
その病を減らします。速やかにすれば喜びがあり、咎はありません。
爻辞の読み解き
害の根を早く除けば、憂いはそのまま喜びへ変わります。疾は身体の病に限りません。組織の弊病、関係の病根、物事の中に巣くう害も疾です。四は初と応じ、内外ともに何を損すべきかを知っています。だから決心して病根を去ります。
ここでも「遄」が大切です。病は長く置けば悪くなります。組織の弊も、関係の害も、放置すれば深くなります。損疾は乱暴な削減とは違います。本当に害をなす所を狙って減らすのです。病根を正しく去れば、急いでも喜びがあり、咎はありません。
実際の読み方
時運は小さい災いがあっても、救いを得れば癒え、憂いが喜びに変わります。経営では、仕入れや手持ちを減らしてすぐ売れば利があります。戦いでは傷を受けても治せる。大事には至りにくいでしょう。
家宅は陰気が盛んで病人が出やすく、病源を処理します。功名は一時は望みにくい時です。婚姻は初と四が応じ、成れば喜びがあります。訴訟は害の根を去れば自然に平らぎます。
高島の占例
工部省書記の杉実信は、高島の旧知でした。明治十五年二月、朝に届いた電報で杉氏の急病を知って驚き、占って損が睽に変じる六四を得ます。この病は重いけれども、名医がすぐ治療すればたちまち癒える、時を過ぎれば名医でも手が出ないという読みでした。しかしその夜は大雪で道が絶え、医師が雪に阻まれて間に合わず、杉氏はその日のうちに亡くなりました。「遄かならしめば喜び有り」の裏面を見せる一件です。急ぐべき時に急げなければ、喜びは間に合いません。
五爻
見返りを求めずにいると、退けられないほどの助けが来ます。
原文
六五:或益之、十朋之亀弗克違、元吉。
書き下し文
六五、或いは之を益す、十朋の亀も違うこと克わず、元いに吉なり。
現代語訳
ある人がこれを益します。十朋の亀でも違えることはできません。大いに吉です。
爻辞の読み解き
徳に感応して来る助けは、退けようとしても退けられません。十朋の亀は、とても貴重な占いの亀です。亀は霊物で、吉凶を知るものとされます。誰かがそのような貴いものをもって益してくれ、しかも退けられない。強いて求めた利益というより、徳と誠に感応して来る益です。
六五は柔順で中を得ており、下に対して誠が通じています。だから人がその誠を献じたくなります。「或益之」の或は、どこからともなく来る意外な助けを表します。理数がすでに定まっているので、貴い亀で占っても違えられません。象伝の「自上祐也」は、天の助けがあるようでもあり、また上爻が五爻を輔けるようでもあります。
実際の読み方
時運は盛んで、思いがけない引き立てや助けを受けます。戦いでは、先に占って吉兆を得るような時です。経営では、財運が来て、押し返しても退かないほどです。
功名には天助の象があります。家宅は家業が盛んになり、婚姻は天作の合といえます。病は癒えた後に、かえって財や福を得ることがあります。
高島の占例
東京の豪商の家の幹事が、本店の命で大蔵省の事務を請け負い、数百人を率いて仕事をしていました。翌年に大蔵省が改革され、この事務が廃止されれば数百人が失業しかねません。そこで別の会社へ移して救うべきかを占い、損が中孚に変じる六五を得ます。高島は、この人の心は正直で長くその事に任じてきたのだから他へ転じる必要はない、将来意外の福があると断じました。翌年は上爻の「損せずして益す」に至るので、この事務は廃止されず、人々は大過なく吉となるだろうと読み、後にその通りになりました。
上爻
損の極では、もう削らず公へ返す。そこから大きく進めます。
原文
上九:弗損益之、無咎、貞吉、利有攸往、得臣無家。
書き下し文
上九、損せずして之を益す、咎なし、貞にして吉なり、往く攸有るに利あり、臣を得て家なし。
現代語訳
損せずにこれを益します。咎はありません。正しくして吉です。行く所があるのに利があります。臣を得て、私の家だけに閉じません。
爻辞の読み解き
損が極まった後は、もう削りません。広く人を得て、公へ益を返す段です。上九は損の極にいます。ここからさらに損せば過ぎてしまいます。だからもう損じません。それがかえって益になります。九二にも「損せずして益す」がありましたが、あちらは中を守って動かないという意味でした。上九は損が極まって変じ、外へ有為に進む意味になります。
「臣を得て家なし」は深い言葉です。互体の坤は臣、艮は家です。艮が動いて坤となれば、臣を得て家なしの象があります。平たく言えば、王者がもう下を損して上を益することをやめ、天下を家とします。臣下も私家だけを考えず、公に帰します。ここまで来ると、損は大きな公共の益に転じます。
実際の読み方
時運は、目の前に大きな妨げがなく、往く所に利があります。戦いでは、軍隊を増減しなくても、そのまま進めば攻め取れます。経営では、価格が大きく上下せず、売りに行けば利益を得ます。
功名は今すぐ志を得られる時です。家宅は改造しなくても吉を得ます。病は外へ出て医を求めてもよいでしょう。行人は外で吉を得ており、すぐには帰らないこともあります。
高島の占例
明治九年、長崎の商人大浦阿啓と神代某が高島に相談しました。以前、駅逓局から横浜製鉄所へ貸し付け、船舶修繕に使った事業が大きく損を出し、駅逓局へ返納するか、他人へ譲るか決めかねていたのです。占って損が臨に変じる上九を得ました。この爻は損の極であり、今後もう損することはなく、損しなければ必ず益がある。そう読んで事業を続けるよう勧めました。翌年、西南の役が起こって船舶の需要が盛んとなり、果たして大きな利益を得ています。
山沢損:読みの覚え
山沢損は、ただ失う卦ではありません。意識して減らし、誠を残したまま均衡を戻す卦です。
まず方向を決めてから減らす
損で問われるのは、少なくすること自体より、なぜ、どこを少なくするかです。欲が多すぎれば損じ、費えが重すぎれば損じ、言葉が満ちすぎても損じます。 弱い所ばかりが削られ、負うべき人が負わないままなら、それを損の徳とは呼べません。ただ均衡が崩れていくだけです。
手を付ける前に、一度止まる
実際に減らしにかかる前に、立ち止まる値打ちがあります。この削減は、もっと大事なものを立てるためなのか、それとも単なる消耗なのか。減らす相手は欲か、費用か、抱えすぎた約束か、言い過ぎた言葉か。 いちばん答えにくいのは、損下益上が公平かどうか、減らされる側がその理由を納得できるかどうかでしょう。三つとも答えられるなら、その減らし方は立ちます。どこか一つでも曖昧なら、たいていは怨みに変わります。
少なく、しかし的確に
予算、時間、関係、健康、経営。どれを問われても、損はまず引くことを勧めます。買い過ぎない、約束し過ぎない、説明し過ぎない、消耗し過ぎない。空いた力を、本当に要る所へ回します。 ただし、人にだけ倹約を求めて自分は変わらないのなら、誠は通りません。
増やす卦、限る卦と並べて
風雷益と並べて読むと、損と益が互いの条件だと見えてきます。当を得ない所を減らせるからこそ、本当に益すべき所へ回せます。水沢節と並べれば、損は自ら減らす働き、節は容量と限度を決める働きで、行き過ぎを防ぐ道が二通りあると分かります。三卦を並べたとき、損という字は「損をする」という意味から離れていきます。
山沢損:読みの覚え札記を開く
山沢損は、ただ失う卦ではありません。意識して減らし、誠を残したまま均衡を戻す卦です。
まず方向を決めてから減らす
損で問われるのは、少なくすること自体より、なぜ、どこを少なくするかです。欲が多すぎれば損じ、費えが重すぎれば損じ、言葉が満ちすぎても損じます。 弱い所ばかりが削られ、負うべき人が負わないままなら、それを損の徳とは呼べません。ただ均衡が崩れていくだけです。
手を付ける前に、一度止まる
実際に減らしにかかる前に、立ち止まる値打ちがあります。この削減は、もっと大事なものを立てるためなのか、それとも単なる消耗なのか。減らす相手は欲か、費用か、抱えすぎた約束か、言い過ぎた言葉か。 いちばん答えにくいのは、損下益上が公平かどうか、減らされる側がその理由を納得できるかどうかでしょう。三つとも答えられるなら、その減らし方は立ちます。どこか一つでも曖昧なら、たいていは怨みに変わります。
少なく、しかし的確に
予算、時間、関係、健康、経営。どれを問われても、損はまず引くことを勧めます。買い過ぎない、約束し過ぎない、説明し過ぎない、消耗し過ぎない。空いた力を、本当に要る所へ回します。 ただし、人にだけ倹約を求めて自分は変わらないのなら、誠は通りません。
増やす卦、限る卦と並べて
風雷益と並べて読むと、損と益が互いの条件だと見えてきます。当を得ない所を減らせるからこそ、本当に益すべき所へ回せます。水沢節と並べれば、損は自ら減らす働き、節は容量と限度を決める働きで、行き過ぎを防ぐ道が二通りあると分かります。三卦を並べたとき、損という字は「損をする」という意味から離れていきます。
この卦を読む前に
本卦、動爻、問いを照らす
卦は一ページだけで読み切るより、問いの置き方、動いた爻、六十四卦全体の流れと合わせて見ると見え方が落ち着きます。
関連記事
本卦の問い
損の卦が出ました。これは損をするという意味ですか。
損失は多くの場合、受け身の流出です。この卦がいうのは自分から減らす方で、耗るべきでない所から資源を引き戻します。方向と誠意があるかどうかが分かれ目になります。
まず何から減らせばよいでしょうか。
余った欲、効かない費用、満ちすぎた約束、人を刺す言葉。そのあたりから手を付けます。暮らしを細らせるための引き算ではありません。力を正しい場所へ戻すための引き算です。
減らしてよいものと、触ってはいけないものの境目はどこですか。
信頼、健康、基本の品質、人の尊厳に手が届いたら行き過ぎです。損は均衡を戻す卦で、土台を壊す卦ではありません。表向きは減っていても、支出や関係や心の静けさが整っているなら、それは効いた損です。
損の卦が出ました。これは損をするという意味ですか。開く
損失は多くの場合、受け身の流出です。この卦がいうのは自分から減らす方で、耗るべきでない所から資源を引き戻します。方向と誠意があるかどうかが分かれ目になります。
まず何から減らせばよいでしょうか。開く
余った欲、効かない費用、満ちすぎた約束、人を刺す言葉。そのあたりから手を付けます。暮らしを細らせるための引き算ではありません。力を正しい場所へ戻すための引き算です。
減らしてよいものと、触ってはいけないものの境目はどこですか。開く
信頼、健康、基本の品質、人の尊厳に手が届いたら行き過ぎです。損は均衡を戻す卦で、土台を壊す卦ではありません。表向きは減っていても、支出や関係や心の静けさが整っているなら、それは効いた損です。
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