六十四卦 意味・読み方
沢天夬|意味・卦辞爻辞解説(たくてんかい)
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本ページは公開資料をもとに、卦辞、彖伝、象伝、占断、爻辞、占例を現代日本語で整理したものです。
引
五陽が下に満ち、上に一陰。決断はもう避けられません。
卦象と卦名
夬は上が兌沢、下が乾天です。沢の気が天の上にのぼれば、やがて雨となって降ります。卦の中では五つの陽爻が下にあり、一つの陰爻だけが最上にあります。陽気は盛んで、陰邪は尽きようとしている。だから夬です。決断する、切り開く、決して去る。それが夬の字義です。
卦の中心的な意味
序卦伝は「益して已まざれば必ず決す。故に之を受くるに夬を以てす」と言います。物事が益して満ちきり、それを処理しなければ、必ずどこかで破れます。だから益の後に夬が来ます。増えた力、増えた資源、増えた勢いの中に、過剰や隠れた患いが残れば、決断して処理しなければなりません。
夬は剥と反対です。剥は五陰が一陽を剥ぐので、小人の勢いが根深い。夬は五陽が一陰を決するので、君子の気は公明です。とはいえ陽が盛んで陰が衰えていても、軽率に扱ってよい話ではありません。陰は少なくとも、上位にいます。群陽を押さえ、反発を起こす力がまだ残っています。処理を誤れば、かえって禍を激しくします。
向いている問い
夬を得たら、問題を処理すべき時です。もう放置はできません。
ただし方法は、怒りで突進することとは違います。まず事実を公にし、号令を明らかにし、内部へ告げ、証拠と筋道を整えます。それでも退かない時に、強い処置へ進みます。
卦辞
私怨で急がず、公に示して内へ告げてから進めば利があります。
原文
夬:揚于王庭、孚号、有厲、告自邑、不利即戎、利有攸往。
書き下し文
夬は、王庭に揚ぐ、孚ありて号ぶ、厲きこと有り、邑より告ぐ、戎に即くに利あらず、往く攸有るに利あり。
現代語訳
夬は、王の庭で明らかにします。真心をもって号令しますが、危険があります。告げる時は自分の邑から始めます。すぐ兵事に就くのは利ではありません。進む所があるのは利です。
卦辞の読み解き
決断は公明に示し、まず内部へ告げ、武力を初手にせずに進める。卦辞はその順序を立てます。
「王庭に揚ぐ」とは、不正な人や事の罪状を明らかに述べることです。陰で報復せず、私怨で裁かず、公の場所で筋を立てます。「孚号」は、号令に信があり、衆が同じ声で応じること。名分も証拠もなく動いてはいけません。「有厲」は、決断そのものが危険を帯びるという警告です。虎の尾を踏むように、少し誤ればしっぺ返しを受けます。
「告自邑」は、まず内部へ通知し、戒め、邪を去って正に帰る機会を与えよ、という指示です。一度告げても退かなければ、その後に強い処理を考えます。「不利即戎」が戒めるのは、永遠に戦うなという話ではありません。初手から武力へ向かうことを止めているのです。夬の正道は、文徳が前にあり、武力は後に来ます。
実際の読み方
会社や組織を問うなら、まず事実と規則を公開し、それから責任を処理します。関係を問うなら、陰で仕返しせず、先に境界を明らかにします。
法的な争いなら、先に証拠を取り、告知し、手続きを踏みます。小人や弊害を問うなら、姑息に流れてもいけませんし、焦って断ってもいけません。
彖曰
強く断つ時ほど、公明さと和を保ち、根拠を示して邪を去ります。
原文
夬、決也、剛決柔也。健而説、決而和、揚于王庭、柔乘五剛也。孚号有厲、其危乃光也。告自邑、不利即戎、所尚乃窮也。利有攸往、剛長乃終也。
書き下し文
夬は決なり、剛の柔を決するなり。健にして説び、決して和す、王庭に揚ぐとは、柔の五剛に乗ればなり。孚ありて号び厲きこと有りとは、其の危うきこと乃ち光るなり。邑より告ぐ、戎に即くに利あらずとは、尚ぶ所乃ち窮まればなり。往く攸有るに利ありとは、剛長じて乃ち終わるなり。
現代語訳
夬とは決することで、剛が柔を決し去ることです。剛健でありながら悦び、決断しながら和らぎます。王の庭で広く告げるのは、一つの柔が五つの剛の上に乗っているからです。誠をもって号令し、危険があると告げれば、その危うさを知ることがかえって光明となります。まず自らの邑から告げ、直ちに武力へ訴えるのを不利とするのは、武力を尊べば道が窮まるからです。往く所があるのに利があるのは、剛が伸びて最後には柔を決し終えるからです。
彖伝の読み解き
強く断ちながら粗暴にならず、筋を立てて和を保つ。彖伝はそこを説きます。五陽が一陰を決するので、一見とても強硬です。しかし下卦は乾の健、上卦は兌の悦。粗暴に争うのとは違います。健やかでありながら悦びを失わず、決断しながら和を失わない。断つ力を持ち、しかも厚道と公正を保つのが夬です。
「柔、五剛に乗る」とは、一陰が五陽の上にいることです。問題は孤立しているようでも、高位にあります。だから慎重さが要ります。罪を明らかにしなければ、衆は納得しません。告げずに攻めれば、忠厚の道を失います。夬では、何のために決するのか、何を根拠に決するのか、どこまで決するのかを、衆に分かるようにしておきます。
君子が小人を去る時、小人が君子を害するような残忍さや過酷さを持ち込んではいけません。まず文徳をもって告げ、やむを得ない時に武力を用います。孤陰を軽んじ、自分の人数と勢いを頼んで急に動けば、かえって党禍を引き起こします。
国家も同じ、家事や交友も同じです。家の中に一つ奸邪を残せば、後に蔓延します。友人の中で偏邪な者と交われば、やがて巻き込まれます。しかし処理は公明でなければならず、一時の嫌悪だけで決してはいけません。悪を去るのは草を除くようなもので、根を断つ必要があります。夬を用いるのは水を治めるようなもので、決壊の後の洪水も防ぎます。
実際の読み方
夬を読む順序は、問題が本当に決断を要する所まで来たか、証拠を公開できるか、内部へ告げたか、衆が同心か、手段が中正か、後患を清められるかです。
一つでも欠けるなら、まだ急ぐ場面ではありません。
象曰
上に満ちた禄や徳は下へ施してこそ、決壊を防げます。
原文
沢上于天、夬、君子以施禄及下、居徳則忌。
書き下し文
沢の天に上るは夬なり。君子以て禄を施して下に及ぼし、徳に居れば則ち忌む。
現代語訳
沢が天に上るのが夬です。君子はこれを見て、禄を施して下に及ぼします。徳の上に居座って独り占めすることを忌みます。
象伝の読み解き
上に満ちた恵みは下へ施す。徳を自分だけのものにしない。象伝はそう教えます。沢の気が天へ上ると、最後には雨となって万物へ降ります。君子はこの象を取り、上にある富貴、俸禄、徳沢を下の人々へ施します。
「施禄及下」は、天が雨を降らせ、万物が潤って生きるようなものです。君子は賢者とともに天職を治め、ともに天禄を食みます。その徳沢を私物のように抱え込む立場ではありません。徳に居て自分だけのものとし、惜しんで施さなければ、夬の意味を失います。夬には、上に溜まった沢を決して下へ流し、下を益するという面もあるのです。
ここは益卦とつながります。益は上を損して下を益しました。夬は、上に徳や禄がある時、それを溜めたままにしてはいけないと教えます。よいものが上にだけ集まり、下へ行かなければ、必ず満ちてあふれます。下へ施すことができて、初めて正しい決となります。
実際の読み方
富や地位を問うなら、得た後に分かち、下へ施し、公のために用います。指導者を問うなら、功を誇り、徳を私することを最も戒めます。
組織では、資源を上層だけに積みません。個人の修養でも、能力があるなら下にいる人を助けます。満ちたまま抱えれば、満ちはそのまま損を招きます。
占断
決してよい時ですが、焦れば崩れます。公に、証拠を明らかに。
総合的な占意
総じて、断つべき時には断ちます。しかし断つなら公開して断つ。分けるべきなら公正に分ける。去るべきなら去るが、反撃を防ぐ。夬が最も嫌うのは、正義を私怨にし、決断を衝動に変えることです。
項目別の占断
- 時運:運は強く盛んですが、財は適度に分け、集め過ぎて禍を招かないようにします。
- 戦い:賞罰を明白かつ公平にし、自分の功を誇らず、軍糧も不当に減らしません。
- 経営:厚い利益を得ても他者を利し、公平に分配します。出し惜しみは人々の恨みを招きます。
- 功名と家宅:高位では満盈を自戒し、家では水があふれることを防ぎます。
- 婚姻・訴訟・妊産:縁には決裂の象があって成りにくく、訴訟は果断に終えます。妊産は、古占で男児と読みます。
- 現代での応用:決断は公開し、根拠と公平さを備え、正義を私怨に、果断を衝動に変えません。
六爻の要点
- 初九:力が足りないのに性急に進めば、勝てずに傷つき、責任は自分にあります。
- 九二:昼夜を問わず警戒して備えれば、突然の変事にも慌てません。
- 九三:怒りを顔に出せば凶です。誤解されても、独り正しい決断を守ります。
- 九四:落ち着かず頑固なら進退に苦しみますが、正しい道に従えば禍を免れます。
- 九五:繰り返し生える小さな悪を絶えず除きつつ、中道を失いません。
- 上六:もはや呼びかけることもできない終局です。それまでに害を決し去らなければ、最後には凶となります。
実際の読み方
重大な処理を問う時は、まず内部へ告げ、証拠を整え、相手に改めるか退く機会を与えます。それでも退かなければ、そこで果断に進めます。
この順序を踏めば、決は正しく、往く所に利があります。怒りだけで動けば、後に必ず傷が残ります。
初爻
力も位も足りないうちに先走れば、勝てず咎は自分に返ります。
原文
初九:壮于前趾、往不勝為咎。
書き下し文
初九、前趾に壮んなり、往きて勝たざれば咎と為る。
現代語訳
足の指が前へ進むことに強い。進んでも勝てず、咎となります。
爻辞の読み解き
下から急いで突き進んでも力が足りず、かえって自分の過ちになる。初九はそこを警めます。初爻は最下にあり、夬の始めです。足の指が先に動き、先に強くなるような象。自分が率先して決しようとしますが、最下の陽で最上の陰を決しようとするので、上下が遠く、力も位も足りません。だから往っても勝てません。
この爻が何より戒めるのは、はやって先走ることです。正義感は強く、勇気もあります。しかし時位が低く、力が足りず、準備も整っていない。そこで無理に突き進めば、事は成らず、辱めや禍を招きます。夬は早ければよい卦ではありません。力、手続き、時機がそろうまで待ちます。
実際の読み方
時運は、気負いが強すぎ、妄動すれば過失があります。戦いでは、位が低く力も小さいのに勇を頼んで直進すれば敗れます。経営では、時位を見ずに貨物を動かすと、財を傷め、身も損ねます。
功名は、はやって出れば失敗しやすい時です。婚姻は門戸が合わず、強く合わせれば過ちがあります。行人はすぐ帰るのがよく、訴訟はやめるのがよい時です。
高島の占例
豊島某が近い時期の企ての成否を問うて、夬が大過に変じる初九を得ました。高島は、企ては高い地位に関わるもので容易に届かず、同志はいても相談者だけが身を奮って進もうとしていると見ます。力を量らないので謀は成りにくく、咎を招く。ゆっくり図るべきだと断じました。後にその人は聞かず、すぐ動いて、果たして辱めを受けました。
二爻
昼夜に備えて号令を明らかにすれば、夜の急変にも慌てません。
原文
九二:惕号、莫夜有戎、勿恤。
書き下し文
九二、惕れて号ぶ、莫夜に戎有るも、恤うること勿かれ。
現代語訳
恐れて警戒し、号令します。夜遅くに兵事があっても憂えることはありません。
爻辞の読み解き
危険を見て先に備え、号令を明らかにしておけば、急な騒ぎにも慌てません。九二は乾の中におり、乾の夕惕の徳があります。惕号は、内では警戒を解かず、外では号令を明らかにすること。暮夜は陰の時で、盗賊や兵事は人の不備に乗じて起こりやすいものです。だから夜こそ警戒します。ここまでできていれば、兵事があっても憂えることはありません。
九二は初九より成熟しています。初九は足が先に突進しましたが、九二は警戒が先に立ちます。危険がないから安全なのとは違います。危険のある場所を知り、先に号令し、保険をかけ、防備を立てる。だから患いを免れます。
実際の読み方
時運は中正を得ており、慎めば憂いはありません。戦いでは夜襲を防ぎ、常に警備します。経営では、貨物の運送に盗難、火災、水害を防ぎ、保険をかけるのがよいでしょう。
家宅は夜の火災を防ぎます。婚姻には昏礼の象があり吉です。病は昼軽く夜重いことがあり、陰虚火盛として慎重に治します。
高島の占例
ある豪商の家の幹事が、外へ商旅に出る間、店の事を友人に任せました。ところが彼らは共謀して不正をし、余金を勝手に支出し、相場をつり上げ、偽りの帳簿を作ります。これを暴くべきか隠すべきかを問うて、夬が革に変じる九二を得ました。高島は、夬は不正な者を決し去る卦であり、偽りや不正はみな陰謀だから暮夜の象に合うと読みます。ただし厳しく詰め過ぎれば、窮した者が反撃し、小さくは口舌、大きくは武力にも至る。もっとも相談者は理が直く言葉も正しいので、相手が武を用いても憂えることはない。慎重に、健やかで悦び、決して和するように処理すべきだと断じ、その通り穏やかに結びました。
三爻
怒りが顔に出れば凶。公のためなら怨まれても咎はありません。
原文
九三:壮于頄、有凶。君子夬夬、独行遇雨、若濡有慍、無咎。
書き下し文
九三、頄に壮んなり、凶有り。君子は夬夬たり、独り行きて雨に遇い、濡るるが若くにして慍らるること有るも、咎なし。
現代語訳
頬のあたりが強くなります。凶があります。君子は決してまた決します。独り行けば雨に遇い、濡れたようになって怒られることがありますが、咎はありません。
爻辞の読み解き
感情を顔に出せば凶、公のために独り進むなら怨まれても大過なし。九三はその両面を持ちます。頄は頬骨、顔のあたりです。怒気が先に顔へ出るのは、まだ機事が密でないのに感情だけが外へ漏れている姿。だから凶があります。
しかし後半は、君子夬夬と言います。公のために邪を去らねばならず、やむを得ず独り前へ行くなら、途中で雨に遭い、衣が濡れ、小人たちに怨まれても、志が中正であれば大きな過失はありません。感情が露わになる凶と、独り公事を済ませる無咎を分けて見ます。そこが読みの勘所です。
実際の読み方
時運は正を得ていますが、陽気が盛り過ぎ、独行すれば疑われやすい時です。戦いでは孤軍で深く入り、水に阻まれることを防ぎます。経営では、独り遠く行く客が雨水で遅れることがあります。
功名は孤高で人に妬まれやすいでしょう。家宅は門構えが立派でも上から漏水するので修理が要ります。婚姻は一時よい偶を得にくく、病は顔の腫れや湿熱が上に衝く象です。
高島の占例
明治二十二年、高島が印旛沼の開鑿を占い、夬が兌に変じる九三を得ました。この計画は水路を通し、利根川の土砂を東京湾へ導き、長い後には沃壌を成そうとするものでした。しかし工事には珪藻土、堤防、水力の洗掘、村落の水害など複雑な問題がありました。夬は決水の象です。水勢が高い所で壮んになれば、氾濫決壊の凶がある。開鑿者は君子であり、夬夬は一度で終わらない大工事を示します。独り行き雨に遇うとは、同志は多くても創始者がまず責を負うこと。濡れて慍らるるとは、近い村が少し水に浸かって怨みを持つこと。けれども成れば数十万の民に利が及び、功は千百年に垂れるので、終に大過はないと読みました。
四爻
進退に落ち着かない時も、正しい導きに従えば悔いは消えます。
原文
九四:臀無膚、其行次且。牽羊悔亡、聞言不信。
書き下し文
九四、臀に膚なし、其の行くこと次且たり。羊を牽けば悔い亡ぶ、言を聞くも信ぜず。
現代語訳
尻に皮膚がありません。その行き方はためらいがちです。羊に牽かれれば悔いはなくなります。言葉を聞いても信じません。
爻辞の読み解き
座っても進んでも落ち着かない。それでも正しい導きに従えば、悔いは消えます。臀に膚なしとは、座って安定できないこと。行くこと次且とは、歩いてもためらうさまを言います。四は陰位にあり、剛が陰に覆われています。進むか退くかの間にいて、行こうとして退き、心が安まりません。
兌は羊です。羊にはよく決する象があります。羊を牽くとは、自分が前で乱暴に衝くことではありません。群羊を導きながら、自分は中正の九五に従って進むことです。朱子は、羊が前にいると進まないが、人が後ろから牽けば行くと言います。九四が九五に従えば悔いは亡びます。ただしこの爻には、号令や忠告を聞いても疑って信じにくいところがあります。
実際の読み方
時運は道が当たらず、事が転倒して成りにくい時です。経営は心に定見がなく、機会を失って利を得にくいでしょう。功名は進まなければ成りません。戦いでは負傷し、退こうとし、号令も行われにくいので勝ちにくい時です。
病は皮膚のただれや耳病を防ぎます。婚姻は初めためらいますが、久しければ礼を成すことがあります。行人はしばらく帰りません。
高島の占例
西村貞陽と井関盛艮が、横浜の洋銀仲買である雨宮啓次郎を伴って占いに来ました。雨宮は洋銀相場で十五万円の巨金を得て、後の事業を考えていたのです。高島は、この金で山梨から東京へ馬車鉄道を開くよう勧めました。民に利があり、本人にも安定した収益があるからです。「臀に膚なし」は、雨宮が若い頃に身を削る苦を受け、今ようやく肉を得るほどの大金を得たこと。「其の行くこと次且」は、金を得てから計画が定まらないこと。「牽羊悔亡」は、この羊を牽いて正業に用いれば悔いが消えること。「聞言不信」は、彼が疑って従わないことを示します。後に雨宮は同業者の勧めでさらに相場を張り、大損して半ばを失いました。
五爻
柔らかく広がる害は重ねて断ちます。ただし中道は外しません。
原文
九五:莧陸夬夬、中行無咎。
書き下し文
九五、莧陸は夬夬たり、中行すれば咎なし。
現代語訳
莧陸を決してまた決します。中道を行けば咎はありません。
爻辞の読み解き
柔らかく広がる害は重ねて断ちます。しかも中道を守れば咎はありません。莧陸の解釈は昔からいろいろありますが、ここでは柔らかく生えやすい草と取り、兌の羊の象とも結びます。不正なものは柔らかく小さく見えても、放っておけばすぐ蔓延します。一度で根を清めなければ、後にまた生えます。だから夬してまた夬するのです。
五は卦主で、尊位にいます。最も上六の一陰に近く、最も迷わされやすい位置でもあります。だから群陽とともに、小人を遠ざけ、君子を近づけ、王庭を清めます。ただし「中行」とあるように、過激に振れてはいけません。除去の名を借りて私怨を行うのも同じです。中道を行ってこそ、咎はありません。
実際の読み方
時運は中正を得て、万事に大過はありません。戦いでは、五を主将とし、軍を率いて大道からそろって進みます。経営では時令が過ぎようとしており、貨物は決断して早く売るのがよいでしょう。遅れれば悔いが残ります。
功名は名が現れますが、小人を遠ざけ君子に近づく必要があります。家宅は蔓草が茂るなら速やかに刈ります。婚姻は陰陽相合う吉兆があります。病は陽気が盛り過ぎるので、中を得て調えれば安らぎます。
高島の占例
ある華族家の僕が老主人の気運を問うて、夬が大壮に変じる九五を得ました。老主人は維新以来別邸に隠居し、不正な人に親しんで家業が日に衰えていたといいます。高島は、夬の五は卦主に当たるので、主人に小人を遠ざけ、君子を近づけるよう勧めるべきだと読みました。蔓草を刈るように旧癖を根から除く。中行を得れば家道は正しくなり、気運も盛んになると断じています。
上爻
勝った後に号令をやめると、患いは形を変えて戻ってきます。
原文
上六:無号、終有凶。
書き下し文
上六、号ぶこと無かれ、終には凶有り。
現代語訳
号ぶことがありません。最後には凶があります。
爻辞の読み解き
決断の後に号令や善後をやめてしまえば、最後には凶が来ます。号とは、前に出た孚号、惕号のことです。上爻では夬が尽き、不正の勢いも退いたように見えます。だからもう号令しなくてよいように思える。しかし無号なら、不正な者の罪名が明らかにならず、奸計がまた起こります。
夬はここで終わり、次に姤が始まります。姤では一陰がまた下から生じます。夬の上の一陰が尽きようとしても、小人が再び盛んになるのは防がなければなりません。除悪の後に善後をしなければ、残った禍根は形を変えて戻ります。終に凶があるのは、勝利がなかったからではありません。勝った後に備えを忘れるからです。
実際の読み方
時運は正運が退いた後で、いっそう警戒が必要です。戦いでは軍事が終わりかけても残党が残るので、号令を重ね、善後を厳しくします。経営では貨物が売り尽くされようとしており、後の約束を確認します。商いの名目がなければ凶です。
功名は声名が絶える象です。家宅は書声や笑語がまったくなく寂しいなら、家運は凶です。病は陽が尽き陰が息み、叫ぶ声も出ない危うさがあります。婚姻は媒人が言葉を失い、成りません。
高島の占例
北沢正誠が佐久間象山の事を語ったことがあります。象山は洋学と易に通じ、吉田松陰の海外渡航の志を称えたため連座して幽閉され、免じられた後、一橋公に厚く召し用いられました。北沢は行く前に占うよう勧め、夬が乾に変じる上六を得ます。象山は卦に凶象があると知りながら、使命に応じて行き、ただ慎むと言いました。京都に至って中川宮の前で欧州の形勢と騎衛の術を説き、また馬に乗って示し、自らその術を誇ります。その後、木屋町へ帰る途中で浪士に襲われ、馬上で死にました。高島は、象山は易を知りながら易を守れず、世に用いられたい急心に誤られたと嘆いています。
沢天夬:読みの覚え
沢天夬は、避けられない決断を公に行う卦です。悪を去る勇気は要りますが、怒りや私怨で切れば夬の道を外れます。
決断を公の場に出す
夬は私下の快意とは違います。「王庭に揚ぐ」と言うとおり、規則も、衆人も、事実も見える所に置いて断ちます。 気に入らない相手を追い出すだけなら、それは感情です。公に不正を指し、規則に沿って患いを断ち切ってこそ夬になります。
動く前に、自分へ三つ問う
- この件は、もう曖昧にしておけない所まで来ていますか。 - 決し去りたいのは不正な事ですか、それとも自分の意に沿わない人ですか。 - 断つ前に、公開し、説明し、規則に照らしましたか。
断つが、戦わない
解雇、別離、処罰、危険の切り離し、公の声明。夬は果断を求めますが、好戦を勧めてはいません。処理すべきものは処理し、証拠を明らかにし、手順を正し、後始末まで引き受けます。統治の代わりに衝突を持ち出すのは、夬の正道から外れます。
収め方に力量が出る
上六の「号ぶこと無し、終に凶有り」は、勝った後に備えを忘れる姿を言っています。事は終わったように見えても、罪名が語られず、制度も補われていなければ、残った問題は形を変えて戻ってきます。 決した後に規則を言い直し、記録を残し、善後をきれいに片づける。そこまでで、この卦はようやく一巡します。
初めの一端、その後の改まり
天風姤と並べると、姤は一端に初めて出会う段、夬は問題が形を成して決し去る段だと分かります。姤の時点で見抜ければ、夬まで行かずに済みます。沢火革と並べれば、夬は断つ働き、革は改める働きです。断ち方が正しいほど、後の改変も乱れません。
沢天夬:読みの覚え札記を開く
沢天夬は、避けられない決断を公に行う卦です。悪を去る勇気は要りますが、怒りや私怨で切れば夬の道を外れます。
決断を公の場に出す
夬は私下の快意とは違います。「王庭に揚ぐ」と言うとおり、規則も、衆人も、事実も見える所に置いて断ちます。 気に入らない相手を追い出すだけなら、それは感情です。公に不正を指し、規則に沿って患いを断ち切ってこそ夬になります。
動く前に、自分へ三つ問う
- この件は、もう曖昧にしておけない所まで来ていますか。 - 決し去りたいのは不正な事ですか、それとも自分の意に沿わない人ですか。 - 断つ前に、公開し、説明し、規則に照らしましたか。
断つが、戦わない
解雇、別離、処罰、危険の切り離し、公の声明。夬は果断を求めますが、好戦を勧めてはいません。処理すべきものは処理し、証拠を明らかにし、手順を正し、後始末まで引き受けます。統治の代わりに衝突を持ち出すのは、夬の正道から外れます。
収め方に力量が出る
上六の「号ぶこと無し、終に凶有り」は、勝った後に備えを忘れる姿を言っています。事は終わったように見えても、罪名が語られず、制度も補われていなければ、残った問題は形を変えて戻ってきます。 決した後に規則を言い直し、記録を残し、善後をきれいに片づける。そこまでで、この卦はようやく一巡します。
初めの一端、その後の改まり
天風姤と並べると、姤は一端に初めて出会う段、夬は問題が形を成して決し去る段だと分かります。姤の時点で見抜ければ、夬まで行かずに済みます。沢火革と並べれば、夬は断つ働き、革は改める働きです。断ち方が正しいほど、後の改変も乱れません。
この卦を読む前に
本卦、動爻、問いを照らす
卦は一ページだけで読み切るより、問いの置き方、動いた爻、六十四卦全体の流れと合わせて見ると見え方が落ち着きます。
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本卦の問い
夬が出たら、誰かと決裂しなければいけませんか。
決裂とは限りませんが、決断は避けられません。眼目は不正を決し去ることであって、憂さ晴らしではありません。
この卦でいちばん気をつける所はどこですか。
公開と手順です。証拠もなく、規則も踏まず、感情だけで断つのは夬ではありません。ただの乱れになります。
決断が済んだら、それで終わりでよいのでしょうか。
上六が「号ぶこと無し、終に凶有り」と言うのは、その油断への戒めです。終わりに言うべきことを言い、制度を補っておけば、残った患いが形を変えて戻ることはありません。
夬と姤は、なぜ並べて読むのですか。
姤は小さな端が現れた段、夬は問題が育って決断を迫る段だからです。姤のうちに境界を引けば、夬まで進まずに済みます。
夬が出たら、誰かと決裂しなければいけませんか。開く
決裂とは限りませんが、決断は避けられません。眼目は不正を決し去ることであって、憂さ晴らしではありません。
この卦でいちばん気をつける所はどこですか。開く
公開と手順です。証拠もなく、規則も踏まず、感情だけで断つのは夬ではありません。ただの乱れになります。
決断が済んだら、それで終わりでよいのでしょうか。開く
上六が「号ぶこと無し、終に凶有り」と言うのは、その油断への戒めです。終わりに言うべきことを言い、制度を補っておけば、残った患いが形を変えて戻ることはありません。
夬と姤は、なぜ並べて読むのですか。開く
姤は小さな端が現れた段、夬は問題が育って決断を迫る段だからです。姤のうちに境界を引けば、夬まで進まずに済みます。
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